海賊

□好きな人が悲しむ姿を見ていられなくなった雲雀恭弥
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「私はアナタが怖いの、」





それはいきなりで、目の前の彼女に告げられた。一旦思考回路が止まる僕の頭はその言葉を、ただ黙って聞いているだけになってしまった。


そして尚も、彼女は止まったままでいる僕に告げてくるのだ。






「私は正直わからない。どうしてあなたみたいな人が私の側にいるのか、どうして私の名前を呼ぶのか…。」





「…………で?」





「…だか、だから私はっ…あなたが怖いの…!」





「………ふぅん…。」




曖昧な返事を返すだけで、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。


何それ、意味がわからない。
僕がキミの側にいるのは僕がただずっと一緒に居たいと思うから。
僕がキミの名前を呼ぶのはキミの名前の滑らかな響きと、キミの返事が聞きたいから。


キミはそんな事もわからないの…?ちゃんと毎日、ずっとそうしているのに。可笑しいな。





「……ねえ、何で僕を見ないの?」






キミはそこら辺にいる馬鹿な草食動物とは違うって僕は知っている。
だからキミは分かっている筈だ、僕の言っている意味が。



…けれど、彼女は何だか何時もと様子が可笑しいのを僕は気がついていなかった。






「…っ…!
だから私はあなたが…きょう、恭弥が怖いの!嫌なの!!」





ズキリ――――




その言葉を聞いた途端に急に胸の辺りが痛くなった。
…可笑しいな、草食動物達を今朝潰したけど僕は誰からも攻撃なんて食らってない筈なのにどうしてだろう…?



――――ズキリ



痛いな。
彼女が泣きそうな顔をして僕を見ている。小さな肩が小刻みに震えている。






「…だから、もう私の近くに来ないでっ…!」





力強く、けれども弱々しく彼女は言う。
僕だってそれは驚いた、だって名前がそんな事を言うんだもん。



……嗚呼、馬鹿な名前。僕がそんな簡単に放し飼いにすると思う?
放し飼いをするとでも言ってみようか。と言っても勿論僕の庭だけだけどね。遠くへ何か誰が行かせるものか。






「イヤだね、僕は人の指図は受けない主義なんだ」





「これ、は…指図じゃないわ…!お願いなの!!」





「だから何だって言うんだい。どれも同じ事でしょう?
話しがそれだけなら出て行って。僕は忙しいからね」





「………いやっ、」





「………何だって…?」





「…っいや、いや、いやいやっ!!恭弥がわかったって言うまで私は帰らない!早く私を解放してよ!」






…ちょっと待って、本当に意味がわからない。わかった何て言うつもりはないけれど今僕は名前に出て行けと言ったのに出ない。それってつまり自分から逃げる気はないって事?




可笑しいでしょ。僕が怖いなら目を瞑りそして聞こえない様にすればいい。
けれどそれまでには僕から離れなくちゃいけない。だからそうするなら今なのに……。


何で、わからないわからない。名前は逃げたいの、それとも逃げたくないの?



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