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□夢水泡となりて
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男の口の動きは音にはならずとも確かに意味のある言葉を成していたが、最初それが何を意味するのか理解出来なかった。
普段そんな言葉自体を言う男では無いということもある。
ベッドに沈んだ男は死んだように眠っている。先程触れた額は熱を持っていた。もともと体温の低い男だ、相当辛い事だろう。

「…一体主は何の夢を見ている…」

てっきり良い夢だと思ったのだ。

男の寝顔を覗き見れば負担は深く刻まれた眉間の皺は無く穏やかにも思える表情を浮かべている。先程もそうだ。
だからこそ良い夢だと思ったのだ。
だが、目覚めた時に見せた、愕然としたような今にも泣き出しそうな表情にそれが間違った考えだったと、見ていたのは悪夢だったのだと、そう思ったのだが。

今また男は同じ夢を見ているのだろうか。

「俺には言えぬ事かクロコダイル」


―うらやましい―


男の口の形を真似て動かし眉を寄せる。
一体、お前は俺の何を羨む。差し出せるものならば何でもくれてやるというのに。

分からない。だが、尋ねたところで男が答える事はないだろう。

コプリ。

部屋の水槽では男のペットがこちらを伺っている。
小魚を一口に飲み込むであろう牙を持ったその口からはボコンと大きな音を立てて水泡が上がって。消えた。
 
 
 
 
 
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熱に浮かされる度に過去に見た水中の光景が浮かんでしまう鰐が書きたかった←
寿莉の書く鰐は海大好きです。むしろもう愛してると思う。
それを次こそちゃんと書ければと毎度思う(死んでしまえ)
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