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□タイムリミットまで…
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船長様誕生日
社長は船長様の誕生日を知らなかった模様です^^















端午の節句であるとか、こどもの日であるとか、男の子の行事であるとか、様々な呼ばれ方はあれど、その日は自分にとってなんら特別な意味を持つことはなく、世間ではGWなどと呼ばれるこの連休も日頃から過剰勤務であるクロコダイルには例外になる事もなく、彼は今日もまたデスクと向き合っていた。
ひとつ勘違いを生まぬために言っておくとするならば、世間が休日の中彼がデスクに一人向き合っているのは、仕事が大量に残ってしまっただとか、彼の仕事速度が遅いだとか、そういった理由では無いというところだろうか。
言うなれば、彼は十分に仕事が速いし、その日の仕事を翌日に持ち越すようなヘマはしない。通常であれば、もう十分すぎるほどに仕事は完了しているし、この休みの日にまでデスクに向き合う必要など一片もありはしないのだ。
理由は彼が「完璧主義者」であるという点に尽きる。
書類の見直しからスケジュールの細部に渡る徹底的な管理まで、本来彼の部下がとうに済ませている範囲でさえ、クロコダイルは自らの手で確認し、記憶する。
それでも時間があまってしまうのであれば、先の予定を円滑に進めるべく数ヶ月も前から着実で綿密な計画を立てていく。
よって、彼にとって休みなどあっても無くとも変わりないものと同様であった。

だがこの日いつもと唯一違うことは、クロコダイルの額にはハッキリと青筋が浮かびあからさまな不機嫌さを滲ませていた事であろうか。原因は明らかである。

ぷるるるるるるっ!!

けたたましく鳴き声を上げる電伝虫にもう何度目かも分からぬ殺気を放ってから恐怖のあまり失神寸前に追い込まれている電伝虫の受話器を取る。
一体どういう生態になっているのか先ほどまで怯えていた電伝虫は途端溢れんばかりの笑顔を浮かべ通話相手の声色を真似た。

「いよぉ〜ワニ!おめー電話取るのおっせーぞ?」

耳が痛くなるほどの陽気な大声にクロコダイルは表情を歪め電伝虫をデスクの隅まで追いやった。ギリギリまでコードを伸ばしてからようやく口を開く。

「……用件を言え…麦わら」
「だからよぉー、おれの船に来てくれって!おめー今同じ島に居るんだろ?なぁんで出て来れねーんだよ」

電話の相手、麦わらのルフィは納得がいかないとばかりの声を上げる。電話の向こうで同じ表情をしているのだろう、電伝虫が唇を尖らせる姿が妙に腹立たしい。その顔を見るのが既に5回目だと思えば怒りも増すというものだった。
そもそも、自分の倒した相手に突然電話をしてきたどころか、単身でその敵船と言える相手の船へ来いなどと正気の沙汰ではない。第一、こいつの船にはあの女が居るのだとクロコダイルは深い溜め息を零した。

「いいか麦わら。おれは暇じゃねぇ、次同じことで電話してきて見やがれ。おれは貴様をぶっ殺してやるからな」
「わかんねぇ鰐だなーおめぇが来るって言えば話は済むんだって!良いから来いよ、なっ?頼むっ!」

一体なんだと言うのだ。今まで麦わらから電話がかかって来たことがない訳ではないが、いずれも適当にあしらって通話を終了させればそれ以上追及してくることはなかった。
何か特別な日かとカレンダーを確認してみれば5月5日で時計を見ればそれも後2時間ほどで日付が変わろうとしている。
端午の節句が今日だというのは当然の知識として知ってはいるが、麦わらがこどもの日を大はしゃぎするほどの年でも無いとも思っている。いや、はしゃぎはするのかも知れないが。

「…いい加減にしろ。何故おれがテメェの船に行かなけりゃならねぇ」
「なんでって…、サンジの飯もいっぱいあるし、酒もあるぞ?宴会なんだ、鰐も来てくれよ」
「テメェの船の宴会におれが行く必要はねぇだろう」

第一こどもの日に宴会とはどこか矛盾している気がしなくもない。
簡単な話だ、要は騒げれば良いのだろう。で、たまたまおれの話でも出て呼んでみようとでもいう流れになったのだろうか。何とも迷惑きわまりない話だ。

「おめーに来て欲しいんだよクロコダイルッ!早くしねぇと日付変わっちまうだろっ」
「フン…それで?テメェはおれに柏餅でも買って来いとでも言うつもりか?」

書類を脇に避け灰皿を引き寄せる。受話器を顎元で押さえながら器用に葉巻へ火をつけては煙をゆっくりと味わった。

「は…?柏餅?」
「端午の節句までも宴会とは暢気な事で結構だが、おれを巻き込むな」

切るぞと短く告げ受話器を持ち直したところでハァッ?と間の抜けた声が響く。

「タンゴ乗せ食う?何言ってんだおめー、柏餅なんていらねぇから来てくれよ!おれの誕じょ…「クロコダイルーーーッ!!!!」

キーーーンッと耳を走り抜けた大声に手から滑り落ちた受話器はデスクからぶら下がり揺れた。耳を押さえしかめ面を浮かべたクロコダイルは立った今叫び声を上げた電伝虫を睨み付ける。受話器の持ち主が変わったのか先ほどまでの笑顔では無く不機嫌な表情を浮かべた電伝虫は聞き覚えのある女の声で喋り出した。

「さっきっから聞いてればグダグダグダグダ…!いーから来なさいって言ってんのよ!」
「……相変わらず威勢の良いお譲ちゃんだ…」

聞き覚えはあるとは言え、正直彼女にまで来いと言われるとは思っておらず、声とは裏腹に怪訝な表情が浮かぶのが自分でも分かった。あちらの電伝虫は自分の真似をした表情を浮かべているのだろうか。ぶら下がった受話器を取りながらそんな事を思った。

「言っときますけどね、あたしはアンタが大ッ嫌いよ」
「当然だろうな。なら無駄な話は…「いいから聞きなさいよ!ぶっ飛ばすわよ!?」
「……」

威勢が良いのは知っていたが自分にこれほど言ってくるとは大したものだ。怒りなど湧かずむしろ感心してしまう。後ろで麦わらがギャーギャー喚いてる声が遠くに聞こえるがそれはどうでもいい。

「アンタ今日が何の日だかわかってんの!?」
「…端午の節句だろう。こどもの日に宴会とはと感心していたところだ」
「ハァ…?あっきれたアンタ知らない…あぁ、ルフィの奴言って無いのね…?」
「…何の話だ?」

質問には答えがなく電伝虫は聞き取れない声で受話器の向こうの喧騒を伝えた。何か揉めているようだが、此処までは届かない。
何の日だと問われれば5月5日であるとしか答えようがない。それとも他に何かあっただろうか?
アラバスタでの一件が何時だったかの記憶はハッキリしていないが少なくとも5月ではなかったように思う。マリンフォードの際も同様だ。
特別な日ではない。

「……もしもしっ?」
「あぁ、聞こえているが」

こちらからの返答に女は少し溜め息を零してから先ほどよりも幾分か声を和らげた。

「ルフィが迷惑かけたわね、アンタは聞いてなかったんだもの当然の反応だわ」
「…?だから何の話をしていやがる」
「ルフィのね。誕生日なのよ今日は」

カチリと時計の針が進む音がした。

「…は?」
「だから、誕生日よ我が船長の!ルフィはアンタに祝って貰うんだってずぅっと騒いでたんだけど…知らなかったなら無理ないわ」
「……」

今は何時だ…?

時計を振り返れば後1時間で5月5日を終えようとしているところだった。

「ルフィには気の毒だけどアイツの自業自得なら…「どこに居る」
「…え?」
「お前らの船だ。どこに泊めてある」

自分でも分かるほどに焦った声が出た。
大した事ではないと心の中で声が響くもそれが上手く理解できない。
誕生日など。

「北の港に…あるけど」
「わかった」

返事を待たずに受話器を置く。書きかけの書類はそのままにコートを引っ付かんで部屋を出た。

プレゼントが無いだとか、何故今まで教えなかったんだとか、それなら先にそれを言えだとか。
何故こんなに急いでいるのかとか、明日でも良いだろうだとか。

「あんのクソゴムが……ッ」

人づてに誕生日など聞きたくなかった。などと言えば笑われるだろうか?
とにかく言いたい事は全て顔を見て吐き出せばいい。
だがそれ以上に、拗ねた子供の相手は面倒だ。




拗ねたいのはこっちだ馬鹿野郎





fin
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はたして社長は間に合ったのでしょうか?ご想像にお任せします^^
駄作サーセン←

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