短篇録

風ノ旅ビト 
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格子の門を抜けて回廊を進むと、やがて広漠とした砂地が眼前に開けた。

朽ちかけた巨大な橋柱がそびえ立ち、向こう側の崖壁へと連なっている。

かつては橋が架かっていたのだろう。

砂が壮大な滝となって周囲の崖上から流れ落ち、ドドドド…と激しく轟き響く。









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「…新人か、珍しいな」


低く通る声に後ろから呼びかけられ、シェラは慌てて振り向いた。


純白のローブを纏った長身の旅人が瓦礫の上に立ち、こちらを見下ろしていた。

その顔はシェラと同じ漆黒の仮面で覆われている。


「初めての旅であろう?」

仮面越しに紡がれる声音は深く、重くシェラの耳に響く。

「この場所で出逢った者同士が旅の供となる。それが掟だ」


瓦礫から降りた旅人は、風にはためくローブを翻しながらシェラに近づいた。


初めて逢う、自分以外の旅人。

相手の顔は見えずとも、雄渾さを纏う全身から経験豊かな古強者の風格が漂っている。

風に煽られるローブの下からは、引き締まった精悍な肢体が覗く。

自分と比べて圧倒的に長い手と脚に、シェラは仮面の裏側で瞠目していた。


「…しかし小柄だ。見るからに細い身体つき…こんな華奢な身で果たして旅を乗り切れるのか?」


相方の旅人がこちらに眼を向けながら呟いた直後、砂塵が二人めがけて吹き荒んだ。

シェラは砂埃から身を護ろうと、咄嗟にローブごと自分の身体を抱いてうずくまった。

その小さな姿を砂塵から隠すように、相方に選ばれた“男”は彼女の傍らに立ち、壁になった。
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