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□最初で最後の口付けも結局君には届かない。
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自分の胸に顔を隠すように埋めている名前は予想外中の予想外、泣いているように見えなかった。
無理矢理こいつに玉砕覚悟で告白させたのは紛れもない俺だから少なからず罪悪感は感じたし、泣きながら俺のところに走ってやってくると想定していたのに、名前はただ何も言わず無表情のまま「お願い今だけ抱き締めて」なんて言って俺の胸に顔を埋めているのだ。
名前は泣き顔を見せたくないからか俺以外の人間の前では泣かないようにしていたから、誰にも悟られぬようここに来たかもしれないが。




「‥‥サスケごめんね、ありがとう。」




何も言わない。いや、言えなかったのかもしれない。
顔を埋めたまま小さく震える声で今にも泣きそうな名前は儚く消えてしまうと、らしくないことを考えてしまった。
正直、俺以外の男のために泣くっていうのは腹立たしいし、今、自分の腕の中にいるこの好きな女を自分だけのものにしたいとも思った。

好きで好きで堪らないのに名前には届かない。俺の気持ちを知ってか知らずか他の男を求める名前。
どうしたらいいんだ、俺は。泣きたいのはこっちの方だ。感謝の言葉でも謝罪の言葉でもなく、俺のことを好きだという言葉だけが欲しい。それ以外の言葉も抱擁もいらない。ただただ名前の愛が欲しい。
好きだと言っても晴れないこの心も名前への好きも名前が流す涙でもいい、空から零れ落ちてくる雨の粒でもいい、全て洗い流して欲しいさ。何も知らなかった頃に戻ってしまいたい。

名前と出会わなければ良かったのに。



「なぁ名前。俺のお前への好きっつー気持ちは変わらない。‥‥だが、もうこれで最後にする。」




名前はようやく顔を上げた。目には涙が溢れていた。

名前の唇に自分と同じそれを合わせる。
今まで近くでずっと支えてやったんだ。このどうしようもない想いを力ずくで抑え込んで名前を応援してきたんだ。
これくらいの褒美くらい、許してくれないだろうか。



名前の唇は温かくて涙で濡れていたが甘酸っぱく感じた。





最初で最後の口付けも結局君には届かない。


愛し愛されたい、それ以上は何も望まないから


20120422
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