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□近くて、遠く、一方通行
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「…っ、もう、無理だって、ばああ!!」


うしろでかなりの距離を全力疾走させたせいか息を途切れ途切れに大きく深呼吸を繰り返す名前は膝に両手をつけて、地面を見ているようだ。相変わらず足は速いのに体力全然ないな。





「今、体力ないとか思ったでしょ?」

「自覚はあったんだな」

「なっ、ムカつく!!
なんで3階の端からここまで全力疾走したのに!
階段下りるときとか女の子たちいたのに
なんで、そんなに息切れてないの?ありえない」


あー、一気に喋りすぎてもっと疲れたと名前はすぐ近くにあった、木でできているベンチに深く腰をかけて空を仰ぐ



今、昼の授業をさぼって3階の端の教室から本当は
この公園ではなく自分の家まで引きずり込むつもりだった




朝、いつもと同じく偶然会ったかのような顔振りをする。特にお互い何も言わずに肩を並べて昨日別れたときから今まで起こったことを話す。ほとんど、というか滅多に自分から何か話題は出さないし、相槌を打つだけだが。





それでも付き合いが長すぎたせいか、名前は不満そうな顔をせずたとえば家の庭に野良猫が座っていたとか、コンビニの新作のお菓子が美味かっただとか。



興味をそそる話題も滅多に出されないが、ひとつひとつが小さな物語でひとつひとつが名前の見た世界だと思うと、もっと知りたいと求めてしまう。本人にはこんなクサいこと口が裂けても言えないが





だが、今日の名前はいつもと違っていた。
頬をほんのりと赤く染めて此方を見ずに、小さな声で確かにこう言った。




「隣のクラスの坂野くんに手紙もらっちゃった。」




――――何かが壊れる音がした





今日の昼休み、屋上で待っていてください。



名前も確信している。“告白”だと。



その時から頭の中では名前への独占欲が溢れて
授業どころじゃなかった。

同じクラスだが、席は正反対。
窓際の後ろから2番目の名前と
廊下側の席、前から2番目の俺。



授業中もひたすらノートに意味のない渦巻きを何度も書いたりと落ち着きがないのをナルトとキバに変な目で見られたが気にしない。




キーンコーン



「名前行くぞ!!!」

「サス、ケ!?」

チャイムが鳴り終わる前に名前を呼び止めて
細く雪のように白い手首を掴み、弁当以外は入っていないであろう軽い鞄を持ち、鍵が閉まっていないほうの扉から普段からではありえないほど、ただ、ひたすら走った。後ろから教師たちの声も聞こえなくなるほど。



渡したくない。
この近すぎるのに俺の気持ちをわかろうとしてくれはしない、他の誰でもない“幼馴染”を。

この暴走した感情を経験したのは初めてのことではない。

小さい頃から何故か誰かが名前のこと好きだとか、名前が誰に触られていたとか、名前に気持ちはないのは分かっているのに、それだけで嫉妬心に駆られていつもの判断力も鈍る。




名前のせいで、



「サスケ、なんで学校脱逃げしたの?イルカ先生あとで絶対うるさいのにー…ばかー」




結局俺を思う存分掻き乱すくせに、お前は何も分かっちゃいない。


ひとりで焦ってひとりで暴走して


こんなにもお前のこと好きなのに、







近くて、遠く、一方通行。




もし『幼馴染』じゃなかったら
お前は俺のこと、他の女子たちと同じように恋愛感情を持ってくれたのだろうか。



20120108
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