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□「ごめん、すき」
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左斜め二つ前の君の席。

ほら、
また君は外を眺めてる。

きっと君の目には
また可愛らしいあの子しか写ってないんだろう。




君のあの子を見るその優しい目に気づいたのは
いつだったっけ。

わかっているのはそのとき既に私の心は君に奪われていたこと。


その目を君が私に向けることなんてないけれど、
ただばかなこと言い合って笑いあうだけだけれど、

それでもいい、
今のこの関係が続けば、
この藤真にきづかれることのない淡い初恋を
ずっと押し込めばいいと思ってたはずなのに。

藤真が幸せなら、それでいいと思ってたのに、




――――「好きなんだ、」

ケータイを教室の机の中に置き忘れたのに気づき、
慌てて階段をかけ上げてあと一歩、
右足を出せば夕焼け色に染まった教室というのに

きいてしまった。

藤真がいつも見ていたあの子と向き合っていて、
切なげな藤真の顔が実際に見たわけでもないのに
頭の中で浮かんでしまって、胸が痛む

聞いていられなくて階段の踊り場に戻って
冷たい壁に体を預けてしゃがみこんでしまった。




まさか、こんなにすぐ、
こんなにも一瞬で壊れてしまうなんて思わなかった。


私が先ほどの告白現場を見てしまったのは
紛れもない事実だ。

藤真が私の存在に気づいていなくてもきっと私が、
私自身が
藤真を昨日までと一緒のように直視できないだろう。


わかっていたはずなのに
いつかこの日が来ると。


(すきだったのになぁ、ずっと、)


涙は不思議とでてこなくて、
瞼を閉じても、藤真とあの子が
肩を並べて歩く風景が浮かんでくる。

藤真の幸せを願っていたはずなのに、
何故か、
藤真を独り占めしたいという気持ちに嘘はつけないらしい。


つらい、とか、くるしい、とか、
そんな感情の前に
押し殺してきた藤真への気持ちが喉の奥から出てきそうだ。


「何してーんの?」


頭上に
聞き慣れた
今一番会いたくない
君の
コエ


見上げるといつもより元気のない藤真が
力なく笑っていた。


なんで



「…ふじ、ま?」


「俺以外にこんなところで
しゃがみこんでるばかに声かけるやついねーって。」



嗚呼、
藤真は泣いている。
涙は流していないのに泣いている。



「…そんな冷たいとこで座ってると冷やすだろ。
ほら、さっさと行くぞ。」



夕焼けに照らされる藤真の後ろ姿に
小さな声で、
藤真には聞こえないように私は言った





「ごめん、すき」





左斜め二つ前の君の席。
またこの気持ちを押し殺した。


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