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□いいよ、俺、待つし
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――――・・・ピピピピッ
昨日お母さんが買ってきてくれた目覚ましが鳴って、
いつものように目が覚めたと思っていたのに、
時計の短い針は5を指している。
「いつもより1時間も早いじゃん・・・」
もう一度寝ようかと思ったけど、1回寝ると4時間は起きられないので
渋々ベッドから足を出す。
いつもより気温が低いのがわかった。
カーテンを開けると、外はいつもよりまだ薄暗い。
たまにはこんな早起きもいいかな、なんてふと思った。
パジャマから制服に着替えて顔を洗おうと1階の洗面所にいくと
髪をヘアバンドで上げて顔を洗っている、まだパジャマ姿のお母さんがいた。
「あら、こんな早く起きて珍しいわね。日直か何か?」
「ちがっ・・・日直だ!忘れてた・・・」
完全に忘れてた。お母さんが“あんたは私と似て誰かに言われなきゃ思い出せないからねー。”なんて
呑気なことを言っている。
「でも、日直でも時間、あるんじゃない?
朝ごはん作っておくからチロの散歩行ってきてくれない?」
「わかったー。」
家の庭に出ると犬小屋ではまだチロが眠っていた。
「チロー?チロ、起きてー!散歩行くよ−」
体を軽く揺すると重そうな瞼を上げて伸びをした。
頭を撫でながら首輪に散歩用のリードを付けて、準備完了!
行ってきまーす。と小さな声で言って玄関の門を開いてチロとの散歩が始まった。
―――河原について灰色のコンクリートで出来た階段に腰をおろす。
空を見ると薄暗い空がだんだん明るくなって綺麗なグラデーションになっている。
眩しい太陽の光も見えてきて、一気に気温が上昇。
早起きは三文の得、なんてよく言ったものだ。
綺麗だねーとチロの頭を撫でながら言うとチロは気持ちよさそうに目を瞑った。
「あれ?苗字?」
後から聞き覚えの声。
振り向くと、犬を連れた私服姿のクラスメートの風早だった。
「やっぱり苗字だ。おはよう、早いね」
「おはよー。風早も散歩?」
「そうそう!珍しく早く起きちゃってさ。
親が“早起きしたなら散歩ついでに走って来い!”ってさ。」
「へえー。じゃあ一緒だねー
あたしも目覚まし1時間早くセットしちゃってさ、
親に言われちゃって。」
チロを撫でながら言うと
風早は教室でもよく見る眩しい笑顔になった。
「犬の名前は?」
「んー?“チロ”だよ。その子は?可愛いね」
「“マル”って言うんだ。ペドロ・マルチネス!」
ぺ、ペドロ・・・?
白く小さなペドロ?クンは物珍しそうにチロの匂いを嗅いでいる。
仲良くなれたらいいね、なんて。
「それにしても、こんな早くに苗字に逢えるとは思わなかった!」
「それはこっちの台詞だよー。
だって風早、いっつも遅刻ギリギリじゃなかった?」
「あ、あれはっ・・・ピンに連れまわされてるんだよ」
「ピンにー?はははっ」
なんか意外でツボにはいったみたいで、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
当の本人には悪い気がしたがこみ上げてきた笑いはおさまらない。――――・・・「早く起きて正解だったなぁ」
「ん?風早、なんか言った?」
「ううん、何にも!っつか、そんなに笑わなくたっていいじゃんか!」
「あ、だめー?」
やっぱり、ピンに連れまわされる、風早を想像すると
笑いがこみ上げてくる。
久しぶりにこんなに笑ったなー
「あ、そういえば今日、苗字日直だよな?」
え、とまさか覚えられているとは思わなくて拍子抜けた声が出た。
風早が吹き出した。あ、ヤバい恥ずかしい!
「俺もなんだよね、日直。」
「え、ほんとに?知らなかった!」
「普通、相手も見ないー?苗字ってほんと面白いなー!ははっ」
あんまり今まで喋ったことなかったから意外。
人見知りだったはずなんだけどな、あたし。
風早のひとことひとこと、ひとつひとつの仕草にドキっとしてる。
胸が高鳴る・・・なんて言うのかな。
変な感じ・・・。
「あ、そうだ!一緒に学校まで行かない?」
「でも、あたし朝ごはんあるし・・・食べるの遅いよ?」
「いいよ、俺、待ってるし。じゃあ、俺が準備できたら苗字の家行くから!」
それじゃっとペドロくんを連れて走って帰っていく風早の背中。
・・・あれ?なんで顔、熱いんだろ?
―――そういえば、なんで風早、あたしの家知ってるんだろう?
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title by 確かに恋だった