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□王者の掟
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幸村が倒れた
それは紛れもない事実

それは立海大男子テニス部に
大きな打撃を与えたのも事実だ。


皇帝と呼ばれる副部長の彼でも
参謀と呼ばれるデータマンの彼でも
突然のことすぎて未だに頭は理解されていないらしい


コートではいつもの耳が痛くなるほどの
部員たちの大きな声も聞こえない


丸井、仁王、桑原、柳生、切原の5人は
部室で何も喋らず天井をぼーっと見上げたり様々だが
誰も何も考えていなかった






幸村本人の意識は戻ったが
診査結果はまだ彼の耳には届いていない

彼は『大丈夫、疲れていただけだ』と自分に言い聞かせ
震える己の体を抱いた









――――…「真田。」



フェンス越しに呼んでみるが、やはり上の空だ

隣に居る柳は気づいた様子で首を左右に振る。





「真田!!!」



自分より背の高い彼の肩を強く持ち、此方を向かせる

彼はあたしを見て一瞬だけ大きく目を見開いたが
また、先ほどの色のない目に戻る








「苗字…か。どうした」

「どうしたじゃないよ、それはこっちのセリフでしょーが」






あたしは彼らを見て思ったのだ




『情けない』 『格好悪い』




「真田、部員全員集めて。
柳は部室に居る奴ら連れてきて。口答えは許さない」




何か言おうとした柳に投げかける
真田はいつもより何百分の一の声量で情けなく『集合』と言った




 

時期に部室に居た、R陣も集まった






「ねぇ、あんたら何してんの


部長がいなくなっただけで、なんでこんなに全員がやる気失せてんの
これが王者立海大?こんなんで常勝?


ふざけんのも大概にしてよ


そんなんじゃ女子のあたしらまで馬鹿にされるんだけど。」




「苗字っ!!てめェ!!」





切原が今までとは真逆の表情のある顔になり
あたしの胸倉を掴みかかった


「お前に何がわかんだよ!!

急に仲間を失った俺らの気持ちが!
大切なもんが急にパッて消えたみたいな感覚が!

当たり前だったことが、日常が急にぶっ壊された気持ちが!


お前に…何がわかんだよ」



最後のほうは聞こえなかった
それだけ急すぎて驚き、辛かったんだろう



「赤也…やめろ」

「落ち着け、赤也」



丸井とジャッカルがあたしの胸倉を掴んでいた切原を離す







「ですが・・・苗字さんもすこし言いすぎではないでしょうか」

「そうだ、女子テニス部のお前等には関係のないことだろう」

「…プリッ」


真田は口を開かない



「わっかんないよ。あんた等の気持ちも考えてることも。全然。


でも今一番辛いのは誰?驚いてるのも、不安なのも
全部、精市でしょう?

なのに、なんであんたら練習もせずに
動揺しかしてないの?





…おそらく精市の退院まで時間がかかる




王者立海は部長なしじゃ勝ち進んでいけないの?


もし、あたしが精市でも帰ってきてもこんな状態だったら
こう言うよ?」




―――王者立海が情けない




「あたしだって驚きを隠せなかったし
この先、あんたらはどうなるんだろうって考えた

泣いて泣いて、それでも答えは見つからなくて

あたしよりも辛そうな顔をしているあんたらを見たら
落ち着かなかった



確かに、人はなにか大切なものを、当たり前だった日常を
急になくしてしまったら、壊れてしまう脆いものだけど

あんたらは違うでしょう?王者だよ?
それに、今までどれだけ部長を頼っていたかわかるチャンスじゃない

部長を驚かせようとは思わないの?」




 王 者 の 掟 





ねぇあたしたちは強い



そんなこと

最初から
『常勝』を掲げたあの時から
わかってたことじゃない




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