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□言葉で表せないこともあると知った
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大好きな人を、愛する人を、大事な人を
守れる強い人間になりたいと誓ったのは

剣を初めて握ったその瞬間から。
近藤さんに着いていくと誓ったそのときから。

そして


ミツバさんが息を引き取るのを間近にみた、
沖田隊長が涙を流すのを初めて見た、今このときから。






「あれ…?万事屋の旦那じゃないですか。
どうしたんですか?こんなところで。」



沖田隊長の背中を見てると、息がつまり涙が出てきそうだったので
誰もいないと思った屋上へ行くと、入り口のすぐそこの壁にもたれて何かを食べている、
万事屋の旦那、もとい坂田銀時が胡坐をかいて座っていた。



「おー、真選組のメス猫名前ちゃんじゃねぇか。」




「うるさいです。…で?何食べてるんですか?」

「あー、コレ?…食ってみればわかるけど?」




ほい、と差し出された真っ赤な…煎餅かな
それを口に入れた瞬間異常な辛さが口に広がった。



「ゴホッゴホッ!何ですかコレ。」



 
「辛ぇだろ?…ほれ見ろよ、辛すぎて泣いてるヤツだっているぜ?」



旦那が指差す方には同じ真選組の隊士服を着ている…あれは…副長…?


鬼の副長とも呼ばれる彼が
たかが煎餅で涙を流すほど脆くはなかったはず。


なのに何故…?




…あぁ、そうか。




ツラいんだ
ミツバさんが亡くなって…。

大切な人を失って。


気持ちを伝えることもできずに。



前々から二人が想いあっているの知っていたし、隊士の中でも噂になっていた。
相談にだってほんの数回だが、ミツバさんからされたこともあったから。



…馬鹿な人。


尊敬している人に言う言葉じゃないけれど
思いを告げずに、彼女が息を引き取るところさえも見ずに

一人で大勢の敵に突っ込んで無茶をして大怪我をして。

カッコつけるだけつけて…。


 


あなたはそれで満足だったの?





満天の星空を背景に、ただひたすら「辛ェ…」と言いながら煎餅をほお張り
ツラいと言えない土方さんを見て


だんだん冷たくなっていくミツバさんの左手を自分の頬にあてて
止め処なく涙を流す沖田隊長を見て





言 葉 で 表 せ な い こ と も あ る と 知 っ た




辛い、悲しい、そんな単純な表現じゃなくて
もっと何か、この感情にふさわしい言葉を、

彼らに
あたしに

誰か教えて…――――



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