BL


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納得しているような、していないような、微妙な表情をするティエリア。

それからぼそりと呟いた。


「映画を見るなら……記録映画がいい。」


「へ?」


「そのほうが勉強になります」


「…ぷっ、」


生真面目すぎるティエリアに、なんだか笑ってしまった。

ティエリアはそんな俺を不可解そうに見つめる。

小首を傾げて、頭の上に疑問符でも浮かんでいそうだ。

子供っぽくて可愛い。

俺の好きな表情。


「でもよ、こういう映画からだって勉強できることはあるんだぜ?」


笑いは早々に収めて、俺はティエリアに言う。


「もしかするとこの先、お前さんが女装してパーティーに潜入するなんてことも、あるかもしれないだろ?」


「じ、女装?」


予想外の言葉に驚くティエリア。

……が、すぐに俺自身も驚くことになった。


「女装なら、確かに何度かしていますが……」


「は!!?」


「…そんなに驚くことですか?」


「驚くに決まって……、つか、おま、女装、て、いつだよ!?」


「最後にしたのは2ヶ月ほど前です。個別ミッションだったので、貴方は知らなくて当然でしょう」


「………マジかよ。」


完璧に見逃していた。

事前に知っていたなら絶対見に行ったのに。


「身体的な面で女性には荷が重い、しかしその場所へは女性でないと容易に潜りこむことが出来ない…、そういう場合に限り僕が女装をしてミッションを遂行しているんです」


確かにティエリアなら女になりすますくらい簡単に出来るだろうし、生身での戦闘においても華奢な容姿からは想像出来ないほど強い。

この映画の主人公と同じような乱戦だって、ティエリアなら平気でやってのけそうだ。


「………じゃあ、将来、本当にパーティーに潜入〜ってのも有りなんじゃ……」


「僕も先程の貴方の発言で初めて気づきましたが、…その可能性も十分有り得ます」


「つか…、お前さん、パーティーなんか行ったことあんのか?」


「…………ありませんけど。」


そう言って、ティエリアはふて腐れたような顔をした。

たとえ上流階級でなくとも、普通ならパーティーの1つや2つ経験しそうなものだが。

やっぱ世間知らずなんだよな……こいつ。


「大体そんな仏頂面じゃあパーティーでも浮いちまいそうだなぁ。こっそり潜入なんて無理なんじゃねーか?」


「っ、そんなことはありません。疑似人格で対応すれば何とでもなります…!」


ムキになるティエリア。

本当に子供っぽいな、こいつ。

そんな気は無かったのに、なんだかいじめたくなってしまう。


「じゃあパーティーに来ても怪しまれないような表情、今すぐ作ってみてくれよ?」


にこーっと笑いながらも口調は思い切り意地悪く、俺は言う。

普段は好きなだけ甘やかしているくせに、自分の都合で態度を変えるなんて狡い奴だと自分でも思った。

もちろん反省はしない。


「ぱ、パーティー用の表情とは、具体的にどういう…」


唐突な注文に多少戸惑いつつも、ティエリアはやる気はあるようだ。

負けず嫌いな性格が現在進行形で災いしてんぞ、ティエリアさん。


「そうだなー。ま、とりあえずは笑顔だな」


「ぇ、笑顔……」


「そ。パーティーではパーティーらしく、楽しそうに笑顔を浮かべてないとな」


「………分かりました。」


ぎこちない声で了承して、ティエリアは顔を俯ける。

瞬間、前髪が流れるようにさらさらと垂れてゆき、ティエリアの表情を覆い隠した。

その拍子に髪の香りが鼻腔をくすぐって、どきりとする。

考えてみたら、こんなにも近くにいるのだ。


「…………」


数秒後、再びティエリアが顔を上げる。

――これがマイスターとしての矜持というものなのか、それとも単に負けず嫌いなだけなのか…、

あどけない笑顔が、そこにあった。


「っ、」


完璧に油断していた。

笑うことなど冷笑以外にほとんど無いティエリアが急に笑顔になんてなれるはずがないと、たかをくくっていた。

が、俺の目の前には今、眩しいくらいに天真爛漫な笑顔をごく自然に浮かべているティエリアがいる。

…口の両端が若干ヒクついている気もするけれど。


「…えー…。ティエリアって実は何でも出来ちゃうんだな…」


「当たり前です。僕を誰だと思っているのですか?」


にこにこ笑顔のまま、口調には思い切り嘲りを含ませて言うティエリア。

……意趣返しのつもりなんだろうか。








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