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□12月9日
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12月9日。
グレゴリオ歴において年始より344日目、年末まであと22日となる日。
1948年に、当時の国連が集団殺害を国際法上の犯罪とし、防止と処罰を定めたジェノサイド条約を締結した日。
1968年に、世界で初めてハイパーテキストリンクやマウスなどを実用化したコンピュータシステム・NLSが発表された日。
2002年に、青木稚華とかいう日本人が理由は知らないが『地球感謝の日』と定めた日。
「それ以外に何かありましたか?」
12月9日と言えば何の日か、と突然ロックオンに問われた僕は、自身の回答をそう締めくくる。
彼が何故こんなことを尋ねてきたのか、意図が全く分からない。
12月9日など、ミッションの行動予定日という訳でも無く、ヴェーダの観測により世界的な事件が起こると予想されている日でもない。
かと言って、彼は別に先程僕が述べたような史実に興味を示している訳でもないだろう。
……意図や目的の分からない質問は、苦手だ。
正直言って苛々する。
そんな考えがどうやら僕の表情に表れていたらしく、隣に座っている彼は微かに苦笑した。
「こらこら、眉間にシワ寄せちゃ駄目だろうが。せっかくの可愛い顔が勿体ないぜ?」
そう言ってロックオンは、僕の眉間を指で解すようにぐりぐりと押す。
僕はそれを避けるように後ろに身を引くと、彼を睨みつけた。
「そんなことより、12月9日が一体何だと言うのですか。教えて下さい」
「あのなぁ…。それ、本気で言ってんのか?」
苦笑を通り越して呆れた表情を浮かべるロックオン。
何故そんな顔をするのか分からない。
分からないことは苦手だ。苛々する。
…それに、分からないと無性に不安になってくる。
僕は再び、12月9日という日付けを頭の中で検索にかけた。
12月9日……12月9日、………
12月、9日……
「…、」
不意に、あることに思い至った。
けれどそれは特に留意すべきことでは無い気がする。
こんなどうでもいいことを彼は聞きたがっていたのだろうか?
疑問に思いつつも、僕はロックオンの方を見て言う。
「もしかして…、僕の製造日のことを言っているのですか?」
「お。正解。……つーか製造日って言うなよ。誕生日、だろ?」
そう言ってロックオンは、僕の頭をくしゃりと撫でる。
表情は相変わらず呆れを示していたけれど、撫でる手つきは優しかった。
誕生日…。
製造日と、さして意味は変わらない気がする。
…けれどロックオンが言うのなら、製造日が間違いで、誕生日が正解なのだろう。
そんなことを素直に考えられる自分もどうかしているとは思うが。
いずれにせよ、僕にとってはどうでもいいことだ。
僕が生まれた日など、計画には一切関係ないのだから。
「12月9日さ…、ミス・スメラギに頼んで、2人とも丸一日休みにしてもらったからな」
僕の頭を撫でるのを止めないまま、ロックオンは穏やかな口調でそう言った。
ロックオンに頭を撫でられると少しくすぐったいけれど、温かい手の平で触れられる感覚は好きだ。
心地よくて僕はそっと目を閉じる。
それからロックオンが先程言ったことを頭の中で反芻する。
…ふと、疑問が浮かんだ。
「……2人とも?2人というのは、誰と誰のことです?」
「って、おいおい。俺とお前さんに決まってんだろーが」
「貴方と僕……、」
「そ。だから、どっか行きたい場所があったら遠慮なく言えよ。道調べとくから」
「へ?」
言われたことの意味が分からず、間の抜けた声を出してしまった。
そしてすぐに理解する。
つまりロックオンはこう言っているのだ。
『12月9日は、一緒に過ごそう』、と。
「…………」
急に自分の頬が熱くなるのを感じた。
おかしい。
さっきまで何ともなかったのに。
僕にとってはどうだっていい日を勝手に休暇にされて、本来なら怒ってもいい場面のはずなのに。
「はは、顔真っ赤になってんぜ?」
邪気の無い笑顔を向けながら、ロックオンは言う。
そんな彼の笑顔に、自然と心臓の鼓動が速くなる。
どうしてこの人は笑うとこんなにも綺麗なのだろうか。
「別に、赤くなってなど……」
小さな声で僕は弁解する。
自分でも全く説得力が無いなと思った。
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