BL


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…………………。

――見ている夢が一体何の夢なのか。

曖昧で、いまいちはっきりしない。

視界に白い靄がかかったようで判然としないが、だからこそこれが現実ではなく夢なのだということは理解できる。

なんとなく、肌が熱さを感じている。

じゃあ…どこか暑い場所に居る夢でも見ているんだろうか。

砂漠とか。

…いや、そうじゃないな。

だんだん白い靄が晴れてゆき、夢の全体像が見えるようになってきた。

……夢の中の俺は、ホテルのベッドの上で寝転がっている。

浅く息を立てて、眠っている。

って、これじゃ現実と全く同じじゃねぇか。

なんだってこんなつまらない夢なんか、俺は見てるんだ?

現実との相違点と言えば、俺が俺自身を客観的な所から観察出来ていることくらいだ。

俺の体はベッドの上に寝転んでいるけれど、俺はその様子を別の所から見ている。

………まさか、幽体離脱?

いやいや、そんな訳あるか。

旅行先でそんなトンデモ体験はしたくない。する理由もない。

そんなことを考えていると、

眠っている俺の髪に、誰かの手が撫でるように触れた。

それを俺自身も感じる。

びく、と思わず肩が震えた。

けれど夢の中の俺は微動だにせず、先程と変わらずに呑気に眠っている。

正体不明の手は、無抵抗な俺の頭を撫で続ける。

俺よりも少し、白い色をした手。

俺の比じゃないくらい、常に手袋をしていたから。

日焼けしていない、雪みたいに白い手。

……俺の比じゃないくらい、沢山の血で汚れてきた手。

その手が、いとおしむような優しい手つきで、俺の髪を撫でている。

――兄さん、やめろよ。くすぐったいだろ。

そう言おうと口を開くけれど、全然声が出ない。

これって夢なんだよな。

夢、なんだよな。

じゃあこれって、俺の願望かな。

…触ってほしいって、本当は思ってんのかな。








唐突に、目が覚めた。

本当に突然、夢から現実へと引き戻された。

けれど、

夢から覚めた気が全くと言っていいほどしなかった。

なぜなら、目の前に兄さんがいたからだ。

俺のすぐ横に座り、

手袋をしていないその手は、俺の髪に触れていた。

まるでついさっきまで頭を撫でていたと言わんばかりだ。


「…」


兄さんは突然俺が目を覚ましたことにかなり驚いているようだった。

もちろん、驚いているのは俺も同じだが。


「…………」


「…………」


「…………」


「…何、してんだよ」


沈黙に耐え切れず、兄さんに問い掛ける。

動揺をごまかしたくて、思い切り兄さんを睨みつけながら。

兄さんはそんな俺から気まずそうに目をそらす。


「………いや、別に。」


「別にじゃねーだろ」


「……………」


数秒の沈黙の後、兄さんが俺へと視線を戻す。

途端、互いの目が合う。

なんとなく、こっちから視線が外せない。

起き上がるとすぐ近くにいる兄さんにぶつかってしまいそうなので、寝転がったままの姿勢で見つめ返す。

……何だこの状況。

さっきから自分の心臓の音がうるさい。

というか、さっきの夢は夢じゃなかったのだろうか。

現実に肌で感じていることがそのまま夢に現れていた、とか、そういことなんだろうか。


「………熟睡中の弟の頭撫でるとか、どんな趣味だよ。変態」


そんな言葉が、俺の口からぽつりと漏れた。

相変わらず緊張したままで。

兄さんはそんな俺の言葉に、若干口ごもりつつ返事をする。


「………や。なんていうか。可愛いなー…と思って」


「は…?」


…可愛いって。

可愛いって、何だよ。

意味不明すぎて混乱する。


「…んなこと兄さんに言われても、ちっとも嬉しくねーよっ」


そう言いつつ、自分の顔が何故か赤くなっている気がした。

鏡を見なくても分かる。

そんな俺を見て、兄さんが慌てたように目をそらす。

心なしか兄さんまで顔が赤い。


「何で赤くなってんだよ…」


「先に赤くなったのはライルだろ」


「…それは、兄さんが変なこと言うから……」






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