BL

□癒してほしい
2ページ/4ページ




「……ライル、言いたいことはそれだけか?俺もそんなに暇じゃないんだが」


兄さんの声で、はっと我に返る。


「…、いや、俺は………」


引き止めたい。


このまま、また兄さんに会えなくなるなんて絶対に嫌だ。


もっと、そばに居たい。


せめて時間だけでも、まだ共有していたい。


…けれど、引き止める為の言葉が思いつかない。


何を言っても、今の兄さんには届かない気がして………。



「………もう帰るぞ。……じゃあな」



「……っ、」


俺が何かを言う前に、


兄さんは席を立ってしまった。


思わず、兄さんの顔を見る。


言葉に出来ない思いが、瞳を通じて少しでも届けばいいと願いながら。


自分でも情けないことをしているという自覚はあったが、もうどうしようもなかった。


「…………」


兄さんは、


こっちを見ていなかった。


俺の方を見向きもせず、店のレジまで歩いて行く。


「……………兄さん」


思わず声が漏れた。


……けれどそれは、自分でも驚く位か細い声で。


兄さんには、聞こえるはずもなかった。






会計を済ませ、兄さんは店を出て行った。


よく考えてみれば、俺はここに来て何も頼んでいない。


…なら、兄さんはコーヒーでも頼んでいたんだろうか。


よく覚えていない。


そもそも、そんなことに気を回す余裕なんてなかった。


………俺は最初から最後まで、兄さんのことしか考えていなかったのだから。


「……帰るか」


これ以上ここにいても仕方ない。


重い体を無理やり起こし、俺は椅子から立ち上がる。


と、


その時、


兄さんの座っていた席に、何かが乗っていることに気付いた。


「これは……」


……携帯端末?


…忘れていったのか……?


兄さんが出て行ってから、まだそんなに時間はたっていない。


今から急いで追いかければ、渡すことくらい出来るだろう。


「………」


端末をそっと手に取り、見つめる。


兄さんの、…携帯端末。


……中身が気にならない、と言えば嘘になる。


何せこの端末には、俺の知りたいことが全て詰まっているかもしれないのだから。


「……………」


悪いと思いつつ、俺は誘惑に勝てなかった。


兄さんのことを、知りたい。


今まで、何があったのか。


どういう思いで、生きていたのか。


……少しでも、兄さんの心に近づくことが出来るなら…。


緊張で強張った指で、


そっと端末を開いた。







.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ