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□花と言葉
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数日後。



「なぁティエリア、お前最近フェルトの部屋にばかり行ってるよな」


食堂で昼食を摂っている時、向かい側の席に座っていたニールに聞かれた。


「急にフェルトと仲が良くなったのか?」


幼い子供の成長を見守る保護者のような視線を向けてくるニール。


……この人は僕を何だと思っているのだろう。


「別に。フェルトから頼まれ事をされたので通っているだけです」


「ふーん?その頼まれ事ってのは何だ?」


「教えたくありません。」


「………そーかい」


残念そうに言うニールに、ほんの少し申し訳ない気持ちになる。


けれど、…植物に話しかけている、なんて言える訳がない。


これ以上ニールと居るとうっかり喋ってしまいそうな気がしたので、早めに昼食を済ませた。


今日もフェルトの部屋へ…植木鉢の所へ行かなければならない。


順調に成長している名前も知らない植物のことを考えながら、席を立った。


「なんだ、もう行くのかよ」


「…何か僕に用事でもあるんですか?」


自分でも無愛想だと思う僕の言葉に、ニールは少し苦笑いして言った。


「……別にねぇけど。お前と話すの好きだから残念だなーと思ってな」


「なっ、」


ニールの唐突な発言に不覚にも顔が赤くなる。


無自覚で変なことを言うのは本当にやめてほしい!


「………も、もう僕は行きますから」


ニールにはそれ以上構わず、赤くなった顔を隠す為にも急いで食堂を出る。


「…………。」


……僕ばかり過剰に意識してしまって、何だか馬鹿みたいだ。


ニール本人は何とも思ってないに違いないのに。




そのままフェルトの部屋まで早足で向かい、ドアをノックした。


「ティエリア?」


ドアが開き、フェルトが顔を覗かせる。


「今日も来てくれたんだ。ありがとう」


「……別に礼を言われる程のことじゃない」


ニールの発言が尾を引いて、少し不機嫌な物言いになってしまった。


けれどフェルトは気にする様子もなく、無垢な笑顔で言う。


「きっと植木鉢のあの子たちも、ティエリアにありがとうって言ってるよ」


「……………」


…やはりフェルトには毒気が抜かれてしまう。


癒し系、という部類の子なのだろう。


少しだけ羨ましい。


………少しだけ、だけれど。


「聞いてティエリア、ついに茎につぼみがついたよ。まだ小さなつぼみなんだけど……」


フェルトが本当に嬉しそうに言う。


「そうか。じゃあ、早速見せてくれ」


「うん、私もティエリアに見てほしいから」


フェルトの部屋に入り、植木鉢のある場所まで行く。


昨日までは何の飾り気もない草と茎が長く伸びていただけだったのに、


10本の草の内の3本に、つぼみがついていた。


生まれたばかりのつぼみはとても小さくて、つややかだった。


黄緑色をしているけれど、…そんな色をした花があっただろうか?


「今はまだ黄緑だけど、そのうち花の色になっていくんだよ」


「そうなのか…。それにしても速いな、もうつぼみが出来るだなんて」


「きっとティエリアが話しかけてくれたおかげだよ。
私だけが話しかけてた時よりも成長するスピードが速くなったもの」


「…僕にはいまいち納得できないな……」


「本当なんだよ?だからこれからも沢山話しかけてあげて」


「……、分かった」


植物に話しかけるのはいまだに少し恥ずかしいが、今更止めるなんて出来ない。


フェルトをがっかりさせたくはない。


それに、


自分でも驚いたことに僕は、…つぼみがついたことを嬉しく感じていた。


……花が咲くまで、応援したくなってしまった。


そこでふと、頭にある疑問が浮かぶ。


「フェルト、君は花が咲いたら僕に半分くれると言ったが、植木鉢の予備はあるのか?」


「ううん、無いよ。取り寄せることも出来るけど、ティエリアには茎の所で花を切り取ってあげようかなって」


「それだとこの植物は枯れてしまうんじゃないのか?」


「それは大丈夫。球根の部分が無事なら枯れないから。
この子たちは元々、花を切り取って飾る為に改良された品種なんだよ」


「そうか…。なら良いが」


「ふふ。でもティエリアが部屋に花を飾るなんて、ちょっと想像できないかも」


「…………確かに。やはり僕は花を貰うべきじゃないな」


「ううん、そんなことない。飾らないなら、花束にして誰かに贈ればいいんだよ」


「花束?……贈る?」


何だか突拍子もない話だった。


花束を誰かに贈るだなんて、今まで考えたことも無かった。


「実はね、私…、ある人に花束を渡したくて、この子たちを育ててるんだ。
……感謝の気持ちを込めて、贈りたいの」


恥ずかしいのか顔を赤くしながらフェルトが言った。


けれどその声は、とても深い温かみに満ちていた。


花束を渡したい相手のことを、よほど大切に思っているらしい。


「……ある人が誰なのか、僕は聞かない方がいいか?」


「えっ?えと、うん、…は、恥ずかしいから…。あ、それも、花が咲いた時に教えるね!」


顔を真っ赤にして慌てふためくフェルト。


何だか子どもっぽいその様子に、自然と小さく笑みがこぼれた。






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