BL
□なくせない傷
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とある雨の日。
適当に選んで入った喫茶店の椅子に腰掛けながら、窓から外を眺める。
まだ昼過ぎなのにもかかわらず、雨のせいで辺りは薄暗かった。
…ただでさえ気分が落ち込んでいるのに、ますます暗い気持ちにさせられる。
「…けっこう激しいみたいだな、雨」
テーブルを挟んだ向かい側の椅子に座ったティエリアが、つぶやいた。
ぼんやりと、俺と同じように窓の外を見つめている。
「……そうだな」
そう一言だけ返した。
それきり沈黙が流れたが、俺は、…多分ティエリアも、会話が続かないこと自体に重苦しさを感じてはいないだろう。
俺達2人は、真っ黒な礼服に身を包んでいた。
何故そんな格好をしているのかというと、
俺達がついさっきまで居た場所が、墓地だったからだ。
…ティエリアと2人で墓参りに行ったのは、今年が初めてだった。
それどころか、俺がこの日に墓参りに行ったこと自体が初めてだった。
それは俺が…、4年前の今日に、たった1人の家族の命が永遠に失われたということを、知らなかったから。
「……やっぱり苦しいもんだな」
ぽつりと、自分でも無意識の内に言葉がこぼれていた。
「ぇ…?」
ティエリアが疑問の声を漏らし、こちらに顔を向けてきた。
…そんなティエリアの表情こそがなんだか苦しげに見えて、心がざわついた。
いつものこいつは、こんな表情は絶対に見せないのに。
「……もう何年も会ってなかったのに…、それでも墓参りなんてすると苦しくなったりするもんなんだなー…って思ってさ」
「…当たり前だろう、家族なんだから」
そう言って少し呆れたように微笑むティエリア。
先ほどの暗い表情が消え、俺は胸中でほっと息をつく。
「…………家族、ねぇ」
本当にそれだけだろうか。
家族だとかそういうことは関係なく……失った人が兄さんだからこそ、俺をこんな気持ちにさせている気がする。
「…………。」
俺はティエリアから視線をはずし、再び窓の外を見る。
……お節介なくらいに世話焼きで、鈍感で自分勝手で、
俺に隠れてスナイパーだのマイスターだの命懸けでやってた兄さんが、
もう、この世にはいない。
未来も何も無い場所へ、行ってしまったんだ。
………失ったものは思ったより大きくて。
心に開いた穴が埋められない。
…この痛みはきっと、誰とも共有出来ないだろう。
目の前にいるティエリアの抱えている痛みだって、根本的な部分は俺と違う。
――けれど、逃げ場のない苦しみを抱えていることだけは、確かに同じなんだと思いたい。
「…なぁ、ティエリア」
「ん…?」
「…お前さぁ、………寂しい?」
「…………。」
問われて、ティエリアが俺の目を真っすぐ見つめる。
それから、ゆっくりと口を開く。
「…………寂しい」
…その声には、深い悲しみが込められていた。
今更、質問しなければ良かったな、と少し後悔した。
寂しいかどうかなんて、分かりきったことだったのにな。
何で不必要な確認をしてしまったのか。
………ティエリアが同じ思いを抱えていることを確かめて、安心したかったからだろうか。
「君はどうなんだ……?」
今度はティエリアが俺に聞いてきた。
どこか不安げに目をそらして。
俺はすぐに返事をする。
「寂しいよ」
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