BL
□体調不良。
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「………。」
ティエリアは上着を脱いだ後、もぞもぞとベッドの中に入る。
体調不良を隠す必要が無くなったからなのか、その様子はさっきより弱々しく見えた。
普段の不遜な態度とのギャップが、不謹慎だけれど何だかおかしかった。
「…何、笑ってるんですか。」
ティエリアがこっちを睨みながら不機嫌そうに言った。
睨んでてもイマイチ迫力に欠けるが。
「ぁ、悪い。俺笑ってた?」
「笑ってました。」
ますます不機嫌そうに言うティエリア。
…けれど別に本気で怒っている訳じゃないようだった。
「…、」
ふと、ティエリアが迷うような表情を見せる。
数秒後、ティエリアは遠慮がちに小さい声で言った。
「……あの。ノドが渇いたので、その…、何か飲み物を持ってきてもらえますか…?」
「…………、あぁ。分かった」
…どうやらこのまま俺を頼ってくれるらしい。
そのことが思っていたより嬉しかった。
こいつは何事も自分一人で解決しようとするからなぁ。
たまにはこんな風に弱さを見せてくれないと、むしろ心配になる。
「ちょっと待ってろよ。水…よりは、すり林檎とかの方が消化に良さそうだな」
「林檎…」
「どうせお前、今日はまともに食事摂ってないんだろ?」
「…………………。」
気まずそうに視線をそらすティエリア。
…その沈黙は肯定と受け取っておく。
ったく、そんなんでよく『大丈夫』だなんて言えたもんだ。
呆れつつ、そういう生真面目な所が実は嫌いじゃないんだよな…とか思いながら、俺はティエリアの部屋から出て行った。
10分後。
再びティエリアの部屋。
「………………。」
「ほら。口開けろよ」
すりおろした林檎をスプーンに乗せ、ベッドに寝たままのティエリアの口元まで運びながら、俺は促す。
けれど当の本人は一向に口を開こうとしない。
「ティエリア〜、何で開けてくれないんだよ?」
「…しょ、食事くらい自分で出来ます…っ。だからそのスプーン、早く僕に渡して下さいっ」
「そんなこと言って、こぼしたらどうすんだよ。
おとなしく俺に看病されなさい。」
「……うぅ…。」
ようやく諦めがついたのか、ティエリアがそろそろと口を開く。
…ただし、ほんの1cm程度。
赤くて小さな舌が、かろうじて見える位。
「もっと開けないと入んないって!」
「…〜〜〜っ…」
渋々といった感じで、今度は2cmくらい口を開くティエリア。
このくらいならスプーンもギリギリ入りそうだ。
「よし。」
林檎をこぼさないように、スプーンを口の中に入れる。
…つか、よく見るとティエリアの唇って…艶があるし柔らかそうだな〜、
とか。
頭の中で考えるだけなら、バチは当たらないよな?
……多分。
「…………んく…っ…」
スプーンをくわえ込みながらティエリアが林檎をゆっくりと飲み込む。
それに合わせて、細いノドが上下する。
噛まないで済むくらいにすりおろしておいて良かったみたいだな。
「…………。」
「ん?」
「………。」
ふと、ティエリアが上目遣いで俺を、じ〜〜…っと見つめてきた。
相変わらず熱を帯びて潤んだ瞳は、近くで見ると驚くくらいに綺麗だ。
「…もっと欲しいってこと?」
こくこく、と小さく頷くティエリア。
「じゃ、まずはスプーン回収な」
俺の声に応じ、ティエリアがくわえていたスプーンから口を離す。
その拍子に熱い吐息が、はぁ、と漏れ出した。
スプーンから唾液が細い糸を引く。
……だからどうしてコイツの仕草は必要以上に煽情的かな。
無駄にドキドキしちまうじゃねーか。
…………。
それとも、俺が意識しすぎてるのが悪いんだろうか。
……かもしれない。
詮ないことを考えながらも、回収したスプーンに2杯目の林檎を乗せてティエリアの口に運ぶ。
今度は素直に口を開いてくれた。
「美味しいか?」
2杯目を食べ終わった所で聞いてみた。
「…はい、まぁ。…冷たくて美味しい……かもしれません」
「煮え切らねぇなぁ〜…」
素直に美味しいって言えば良いのによ。
「………次、ください。」
ちょっと恥ずかしそうに林檎をねだるティエリア。
「…はいはい」
3杯目のスプーンを運ぶ。
と、少し狙いがはずれてしまった。
ティエリアの口に上手くスプーンを入れられず、すり林檎が唇の端から少量こぼれ落ちる。
「ぁ。悪い。」
慌てて指で唇の端を拭う。
自然と、ティエリアに覆いかぶさるような体勢になった。
顔も近くなる。
「…、」
途端に今まで以上に顔を赤くするティエリア。
涙目みたいな瞳で俺を見上げ、その瞬間、互いの目が合った。
「………」
「……………。」
時間が一瞬だけ止まったような気がした。
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