BL

□クリスマスの予約
2ページ/3ページ



というか、ティエリアと居て気まずいと思ったことは一度も無い。


本人がどう思っているかは知らないが、俺はティエリアと過ごす時間がけっこう好きだった。


落ち着く…という訳でも無いが、何というか、


定位置に収まっているような、自分の居場所はここだと思えるような、そんな安心感がある。


………、


…そうだな、それなら、


こういうのはどうだろうか。


「物という形じゃなくていいなら…、
お前と一緒にクリスマスを過ごす権利をくれ」




それを聴いた途端、ティエリアの表情が固まった。


…そんなに驚くほどのことだろうか。


それとも、俺とクリスマスを過ごすのが嫌なのだろうか?


「…せ、刹那、…それは〜〜…」


しどろもどろになりながら、固まった状態から何とか脱出し始めたティエリア。


見ていて何気に面白い。


本人に言ったら殺されそうだが。


「刹那、その、それは、…ええと、どういう意味なんだ…?」


「………?」


どういう意味なんだと言われても。


そのままの意味なんだが。


「俺はただ、お前と一緒なら退屈しないクリスマスを迎えられそうだと思って…。
それにこれなら、ガンダムに関係していないし予算も1万円以上かからないだろう」


「それは…そうだが…」


何故か先ほどよりも一層、顔を赤くするティエリア。


「ティエリア、もしかして先約が居るのか?」


「え!?べ、別に予定は無いが。
というか、君こそ何か予定が入っているんじゃないかっ?」


「いや、別に…」


まだクリスマスまで1カ月もあるし、それ以前に俺にはクリスマスだからといって一緒に過ごすような相手はいない。


俺もティエリアもお互いに暇だというなら、条件は整っている。


けれど、ティエリアは乗り気ではないような様子だ。


真っ赤な顔のまま、じっと俯いて何も言わなくなってしまった。


…何がそんなに気に入らないのだろう。


「……ティエリア、」


名前を呼んだら、ティエリアは素直に顔を上げた。


その瞬間、目が合った。


ティエリアの少し潤んだ透き通った瞳に驚いて、でも視線は外さなかった。


そのまま、お互いに見つめあう。


「………」


ティエリアは、俺の目をまっすぐ見つめたまま、そっと口を開いた。


「……刹那、何を黙っているんだ。
僕に、言いたいことがあったんじゃないのか…」


「…ああ。…ある」


「……なら、言ってみろ」


促されても、上手く口が動かないような気がした。


自分でも理由はよくわからないが、今、俺は、…緊張しているようだった。


とにかくティエリアから視線が外せない。


困ってしまうくらいに。


けれど、いつまでも黙ってはいられないので、俺は言葉を発する。


「……。…ティエリア、俺と過ごすのは嫌なのか…?」


「違うっ、嫌じゃ、ない…」


意外にも即答してくれた。


…でも、じゃあ何故。


「僕は…その、…ええと……っ、…その、だな…、
……あ〜〜…、せ、刹那相手にこんな…緊張したくなんか、無いのに……っ!」


苛立たしげに、ぼそぼそつぶやくティエリア。


「…ティエリアも緊張しているのか?」


何故だろう。


理由が全く思い浮かばないんだが。


「ティエリア『も』って…。刹那、君みたいな奴でも緊張なんてするのか…!?」


露骨に驚かれた。


というかむしろ、疑いの眼差しを向けられた。


「…………。……ティエリア、とにかくこのままでは埒が明かないから、
俺の欲しいものをくれるかどうかだけ、ちゃんと答えてくれ」


見つめる眼差しに真剣な思いを込めて、俺は言った。


「……っ!」


「…どうなんだ?…ティエリア」


5秒くらいの沈黙のあと、ティエリアは口を開いた。



「……〜〜…、……い、良いだろう。叶えてやっても…いいぞ…。特別に」


顔を火照らせながら、ごにょごにょ声で言うティエリア。


その様子が何だか可愛らしく思えた。


見ていて和んだというか…、頭がぼーっとしていて油断していたからなのか、思わずそのまま口走る。


「可愛いな、ティエリア」


「っっ!!?…な、何を言っている、刹那!!」


ティエリアが湯気が出るくらいの勢いで慌てだす。


「…あぁ、本当に何を言っているんだろうな」


自分でも少し驚いた。


…まあ、正直な感想を言っただけなのだから、別に良いか。


「とりあえず…。クリスマスを期待して待つことにする」


「きっ、期待しなくていい、僕と過ごしたって絶対つまらないぞ!
せいぜいガンプラを希望しなかったことを後悔していろ、刹那っ」


「……希望させてくれなかったのはティエリアだろう……」


「知るかっ」


ティエリアは慌てて部屋から出て行ってしまった。


出て行く際に、扉に足を思い切りぶつけていて、かなり痛そうだった。


大丈夫なのだろうか。


「…………。」


…クリスマスまで、あと1カ月。


ほんの小1時間前までは何とも思わなった1カ月が、ひどく長い時間のように思えた。


……早くクリスマスが来ればいい。


不思議と、心からそう思えた。




終わり。



次ページあとがき。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ