学パロ
□1.とある刹那の日常断片
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『きーん、こーん、かーん、こーん…』
始業ベルが鳴った。
しかし、教室内は相変わらず人の話し声で賑やかで、誰1人として慌てて授業の準備をすることもなかった。
何故なら、教室の黒板に大きく『自習』と書かれてあったからだ。
ちなみに本来あった授業の内容は電子工学。
「…それにしても、何故こんな急に自習になったんだ?」
独り言のつもりで呟いたが、隣の席で真面目に自習をしていたティエリアが返事をした。
「担当者は確か、ビリー・カタギリ先生だったな。
大方、ハム先生絡みで授業が行えなくなったんだろう」
冷静に、けれど冷淡に言うティエリアの方を、俺は見遣る。
紫髪のメガネ男子、ティエリア・アーデ。
妖艶とかそんな風に形容できる瞳に、不健康なくらい色白な肌が印象的だ。
ちょっと見ただけでは女子か男子か分からないような、中性的な顔立ち。
…というか、ぶっちゃけ俺には女子に見える。
男子用の制服に違和感があって仕方ない。
…それにしても、ティエリアの意見はかなり納得のいくものだった。
2週間ほど前に、ハム先生がカタギリ先生に新型MS開発で無理をさせて、技術室が半壊したというのは有名な話だ。
「電子工学…楽しみにしていたのに…」
「君がそんなに機械が好きとは知らなかったよ」
「違う。俺が好きなのはガンダムだ」
即座に訂正した。
「………。」
力強い口調で言ったつもりだったが、ティエリアは呆れたような表情になるだけだった。
………『むしろ俺がガンダムだ』とか言った方が良かったのかもしれない。
「そんなことより、さっさと自習を始めたらどうだ?刹那」
「あぁ、わかってる。
じゃあ今日はハルート組み立ての続きを…」
ごそごそと机を探る。確かここに入れといたはず…。
あっ、ニッパーがない。
つまようじもマーカーもない……。
家に置き忘れたか。
「何でガンプラなんだ。
自習と言えば、普通は勉強とか読書とかそういうものだろう」
「俺にとってガンプラは人生の永久命題だ」
「意味がわからないな。
…あまり屁理屈が過ぎると万死ノートに名前を書き込むぞ」
万死ノート……。
初耳だが、デスノートみたいなものだろうか。
「クラス委員長として、君の行為を見過ごす訳にはいかない」
ティエリアの眼鏡がキラーンと光った気がした。
…そう言えばティエリアはクラス委員長だったな。
「しかし、俺の他にも世間話をしていたり、ゲーム機で遊んでいたりする奴がいるだろう」
周りは相変わらず騒がしい。
真面目に自習している生徒は、ほんの一握りしかいなかった。
「もちろん、彼らにも注意をするつもりでいる。
まずは手始めに君からだ、刹那」
「…………。」
厄介なことになった。
既にクアンタとサバーニャは出来ているから、一刻も早くハルートとラファエルを完成させて4機を並べたいというのに。
「……ティエリア」
「…なんだ。急に真剣な顔つきになって」
「……俺は、エスケープさせてもらう」
「何?」
ティエリアが驚いて目を見開いた次の瞬間。
俺は作りかけのハルートを持って、教室を飛び出していた。
気分的にはトランザム状態である。
「まっ、待て!刹那!!」
ティエリアの制止の声を聞き流し、全速力で廊下を走る。
一旦、なるべく人気のない所へ身を隠そう。
その後、ニッパー等の道具を揃えなければ。
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