長編。

□3.『早朝』
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朝。
午前6時。


ジリリリリリリリリリリリリリリリ・・・



「……ん………」



目覚まし時計の音で、目が醒めた。

瞼をこすりながらベッド上でゆっくりと体を起こす。

けたたましく鳴り続けるアラーム音を解除して、ふあ、と小さくあくびをした。



(…………、)



寝起きでぼーっとする頭で、ここはどこだろうと考える。

考えてもよく思い出せなかったので、ゆっくりと辺りを見回してみた。

周りには誰もおらず、僕1人きりだった。



「……………」



自分が今居る部屋に、見覚えがあることを確認する。

新品の家具等、見慣れないものもあるが。



(……ああ、そうか)



ここは、ニールの自宅だ。

そして今は、僕の自宅でもある。

…僕は昨日、ここに引っ越してきたのだった。



「………。」



ニールと、

同居。

その言葉を頭に浮かべてみると、改めて嬉しさが胸の内から湧き上がってきた。

そうだ、僕はついに『あの家』を出て、

大好きなあの人の家に、住むことが出来たのだ。

これからは、わざわざ通わなくても毎日ニールに会える。

当たり前のように、いつでも一緒に居られる。

以前みたいに1、2時間経ったら帰らなければいけない、ということもない。

誰にも気兼ねすることなく、僕はここに居られるんだ……。



「………〜っ」



思わず、頬が緩んだ。

何だか自分でも照れてしまうくらいに、嬉しかった。

こんな感情を持つことが出来るなんて……。

あの頃からしたら、想像も出来ないようなことだ。

これもきっと全部、あの人のおかげなのだろう。



「………さて。」



喜びを堪能するのもいいが、そろそろ起きなければ。

部屋の中には既にニールの姿はなかった。

ということは、目覚まし時計が鳴る前に起きたということなのだろう。

……もしかして、そもそも彼は眠っていなかったんじゃないだろうか?

一睡もせず、朝までずっと起きていたんじゃないだろうか?

………心当たりがないこともなかった。

僕としては否定したい所だが、どうやら僕は寝相が悪いらしいのだ。

まあ、これはあの家でのルームメイト(正確には違うが)が言っていたことなのでイマイチ信用できない情報なのだが。

しかし「せっかくティエリアに添い寝してあげようと思ったのに一睡も出来なかったよ」と言うルームメイトの表情は、嘘を言っているようには見えなかったな……。



「……………。」



あの人のすぐ近くで眠れること自体は、確かに気恥ずかしいけれど、本当はとても嬉しい。

ただの休息という意味しか持たないはずの睡眠が、とても優しい時間になってくれる。

心が安らいで、穏やかな気持ちになれる。

だが、知らない間に寝ぼけた僕があの人を押し退けたり、布団を奪ったりしているかもしれないと思うと………。

い、いや、それどころか……まさか、蹴ってしまったりしていないだろうか!?

もしそんなことになっていたとしたら……。

……ああ、恥ずかしい…。










1人で考えて落ち込んでいても仕方ないので、とりあえず寝室を出ることにした。

パジャマ姿のまま、洗面台まで向かう。

……何故か体中がダルい。

特に足腰が。



「……………?」



……何だろう。

何かを忘れているような気がする。

気のせいだろうか……?

疑問に思いながら、洗面台の前に立ち、顔を洗う。

……と、そこで。

顔を拭く為のタオルを探している最中に、洗濯機が動いていることに気付いた。

こんな朝早くから洗濯か。

あの人は一体、何時に目を覚ましたのだろう。








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