頂き物

□とある二人の学園接近。
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とある日の昼休み。


それに気づいたのは、廊下でクリスティナが自分に話しかけてきた時だった。


「ティエリア、携帯落としてるよ」


後ろから歩いてきたクリスティナに呼び止められ、足を止め振り返る。クリスティナの手にあるのはほとんど使わない自分の携帯だった。気づかないうちに落としてしまったようだ。


「…いつの間に…」

「携帯って落としやすいからねー、気をつけなよっ」


クリスティナの手から携帯電話を取る。正直に言えば携帯電話の有用性が未だにはっきりしないのだが。

すると、真っ白い携帯電話のボディの表面に一瞬青いライトが点いて、またすぐに消えた。いつもは何も点いていないのに、何だろう?


「メールでも来てるんじゃない?」


どうやらメールが来たことを表す合図らしい。


「…何か月ぶりだ…」

「…本当に携帯電話使ってないんだね」


前にアオイ・サフィニアから教えてほしいところをメールしろ、と言っていたことがあったが、結局その範囲以外の所も教えてくれと毎日のように言い出したのだ。そして結局メールが何の役にも立っていないことに気付き、そこからたまにしか使われていない。しかも大体は受け身で、自分からメールを送ることはまずなかった。

クリスティナに苦笑されつつ、携帯電話を開く。確かに待ち受け画面に新着メールの表示がされている。許可していないのに、クリスティナが勝手に携帯電話を覗き込んできた。


「ねぇ、何で待ち受け画面をロックオン先生にしないの?」


ティエリアの白い肌に一気に赤みが差した。


「なっ…!!」

「携帯電話を開けば、いつでもロックオン先生に会えるんだよ?」

満面の笑みでクリスティナが続ける。それは悪魔の囁きのように聞こえたが、一瞬でも『携帯電話を開けばいつでもロックオンに会える』という言葉に惑わされた自分を本気で嫌悪した。


「だっ…大体……毎日ロックオンに会っているのに…」

「そう。そんな先生の爽やかな笑顔を切り取って、自分の携帯電話に収められたらどれだけいいことか…」


それを想像してしまい、さらに顔が熱くなるのが自分でもわかってしまった。完全にクリスティナのペースに乗せられ始めている。

…それに呑まれたら自分が自分でいられなくなってしまうかもしれない。現に前にドジを繰り返した時も…。


「…」

「またそうやって無視するんだから」


まぁいつものことかー、という声を聞き流しながらメールを開くと…



―――――――――
本文


としよしつにきてくれ
―――――――――



「…としよしつ…?」


クリスティナが呟く。…メールを見ていいなんて一言も言ってないが。

何故ロックオンからこのようなメールが来たのだろうか。としよしつ、という言葉を脳内でリフレインしていると…。


「まさか、『図書室』か…?」

「えっ!?」


驚きの声を上げたクリスティナだったが、静かに「…確かに…」と呟いた。


「でもおかしくない?何で先生は変換も何もしてないの?仮に図書室って漢字変換しなくても、としょしつって、ちゃんと小文字にして書くよね?」

「とにかく…」


自分の携帯電話を閉じる。次にこれが開かれるのはいつなのか。


「“きてくれ”と言われているのなら、行かなければならない」

「え、今から授業じゃない?」


その言葉で、自分の腕時計を見つめる。…あと5分で鐘が鳴る時間だった。


「…なら次の休み時間に…」

「あ、でも次の授業って数Bだよね?」

「……」


笑顔で自分を見つめるクリスティナ。まさかと思ったが、満面の笑みで肩を叩かれた。


「一回ぐらいさぼっても、ティエリアなら大丈夫!」


…こういうクラスメートは、悪友よりもたちが悪い気がした。




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