BL
□体調不良。
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冬。
…どうやらティエリアは風邪を引いているらしい。
顔色が全然良くないし、足元はふらついている。
時折辛そうに頭を抑えている様子を見ると、頭痛もしているようだ。
にも関わらず無理をして、何事もないように振る舞っている。
とはいえ、ティエリアの体調不良は、少なくとも俺の目から見れば明らかだった。
気付いた時点ですぐティエリア本人に「休め」と言ったけれど、「何ともない」の一点張りで聞き入れてもらえなかった。
――あれから丸一日経ったが、今日のティエリアは特に体調が悪そうだ。
顔色の悪さは増しているし、息も荒い。
もしかしたら熱が出ているのかもしれない。
さすがに見兼ねた俺は、トレミーの廊下を1人でふらふらと歩いているティエリアの背中に、声を投げかけた。
「…ティエリア、いい加減休んだらどうだ?
そんなんじゃむしろ治りが遅くなるぜ」
俺の声に、ティエリアが緩慢な動きで振り向く。
「別に…問題ありません。ミッションにも何の影響もないようにしますから、ご心配なく」
「………。」
相変わらず自分より計画を優先する態度に、俺は思い切りため息をつく。
「…何故ため息などついているんですか」
ティエリアが不思議そうに尋ねてきた。
…分かんねぇのかよ。
仕方ない。強行手段に出るか。
俺はティエリアのすぐ側まで近付いて、無言のまま腕を掴んだ。
「なっ、」
驚くティエリアを無視し、無理矢理引っ張って廊下を進んでゆく。
にしても、腕細いな〜…こいつ。
こんな時でもなけりゃ、からかってやるんだが。
向かった先はティエリアの部屋だった。
腕をつかんだまま、本人の許可なく部屋の中に入り、ティエリアをベッドに座らせる。
そこでようやく俺は手を離した。
「寝てろ。で、早く治せよな」
その言葉にティエリアは一瞬驚いて、それからすぐに剣呑な目つきになった。
「…っ、さっきから大丈夫だと言っているでしょう!!
だいたい、何故貴方にそんなことを強制されなければいけないんですか!」
「……はぁ〜」
「だ、だから!どうしてため息をつくんですかっ」
焦りまくるティエリア。
見ていてちょっと面白い。
だけど今はそんなことを考えている場合でも無いので、俺は正直な気持ちを告げようと口を開いた。
「お前さんが鈍感だからだよ。
…言っとくが、俺は別にミッションに支障が出ることが心配だとかそんなこと考えちゃいねぇ」
「…っ?」
「俺が心配してんのはティエリア自身のことだ。
…辛そうにしてるお前を放っておけるかよ」
「……………。」
俺の言葉がよっぽど意外だったのか、ティエリアは目を瞬いて押し黙る。
……自分が心配されてるってことに本当に気付いてなかったのか…。
つくづく放っておけない。
何と言うか…、保護欲をかきたてられるっつーか。
「とにかく寝てろ。看病なら俺がしてやるからさ」
「…っ!?…ぁ、貴方が…何故?」
「他の奴に知られて事を大きくしたくはないんだろ?
今のところ、お前が体調不良だってことは俺くらいしか知らないからな。」
「………何で、」
「ん?」
「…何で僕に……そんな…」
ティエリアが俯きがちに、ぼそぼそとつぶやく。
……何でそんなに気遣かってくれるのか、って言いたいんだろうか?
「そんなの決まってるだろ、仲間だからだよ」
と、
ティエリアに微笑みながらそう言って、…何故か俺は自分の言葉に違和感を感じた。
『仲間だから』…。
………何か、違うような気がする。
何故だろう。
疑問に思いつつティエリアの方を見ると、もともと赤かった顔を更に赤くさせていた。
「……………、」
熱っぽい瞳は戸惑うように揺らいでいて、まるで子供みたいに口を半開きにさせている。
そんなティエリアの様子は、『可愛い』という表現がぴったりな気がした。
普段から綺麗な顔だとは思っていたが、今は何て言うか……、こちらが焦ってしまうくらいに可愛い。
…って、何考えてんだ俺は。
自重、自重。
「……、とにかく早く寝ろよ。ほら、上着脱いで」
焦りをごまかそうとして、俺はティエリアを急かす。
ティエリアは無言のまま、おとなしく上着であるカーディガンを脱いだ。
熱のせいで汗をかいていたのか、少し水気を帯びたシャツがあらわなる。
肌の色が透けて見えて、やたら煽情的だった。
…………。
……なんか、余計に追い詰められた感じがするのは何故だろうな………。
…いや、そんなことより。
「やけに素直だな、ティエリア」
ついさっきまで不機嫌そうな態度だったのに。
「…それは……、だって…、ロックオンを困らせたくないって思ったから……」
ごにょごにょ声で言うティエリア。
………、いや、イマイチ理解が追いつかないんですけど。
何で急にツンデレてんだ、こいつ。
『仲間だから』っていう言葉がそんなに嬉しかったのだろうか?
……やけにティエリアらしくない理由だが。
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