BL

□雪が溶ける前に
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冬。


空は雪でも降りそうなくらい、どんよりと曇っている。


街中を覆う冷気に吐く息が白い。


こんな日は誰しも外出する気が失せるのか、人の姿はほとんどなかった。



「……寒い」



隣を歩いていた弟がつぶやいて、ふるるっ、と体を短く震わせる。


俺と弟のライルは双子だけれど、昔からライルの方が寒がりだった。


今日も心なしか服装が俺より重装備がする。



「なら、手繋いでやろうか?」



「…手ぇ繋いだくらいで暖かくなんかならねーよ…」



ライルは不満そうに言いながらも、俺が差し出した手をそっと握った。


手袋を通してライルの指先の冷えた体温が伝わってくる。


俺はその指先を労るように、ぎゅっと握り返した。


それから一応人目を気にして、手を繋いだままコートのポケットに突っ込んで隠す。


…誰にも見られる心配の無いポケットの中で、自然とお互いの指が絡んだ。



「…ちょっとは暖かくなったか?」



言いながら微笑みかける。


ライルは俺の方を見ようともせず、「別に」とだけ言った。


……頬が少し火照っていることに本人は気付いているんだろうか?


可愛い奴。


無意識の内に、口元が綻んだ。



「…何笑ってんだ、兄さん」



「いや、ライルが素直じゃねーからさ、可愛いな〜と思って」



「…可愛いとか言うなよ」



怒ったようにこちらを睨んでくるライル。


それから繋いだ手をぎゅぎゅぎゅ〜〜っと思い切り握り締められた。


いてててて。



「…そーいうとこが素直じゃないって言ってんだよ、ライル」



「……うるさい。」



ライルは不機嫌そうに言って、ふい、とそっぽを向いてしまった。


…どうしてこいつは普段はドライで大人な奴を気取ってんのに、


俺と話す時は途端に怒りっぽくなるかな…。


まるで子供みたいだ。


…まぁ、そういう所も可愛いんだけどさ。





――お互いに特に話すこともなく、無言で街中を歩いてゆく。


けれど別に気まずい感じはしなかった。


ただ手を通して体温を感じ合っていれば、それだけで良かった。


……ライルの手がだんだん暖かい体温を取り戻しているのが分かり、内心安堵する。


ライルが寒いのなら…、俺の体温なんていくらでも奪ってしまっていい。


そうして冷えた体を暖めてほしい。


…心から大切な弟を、どんな小さなことでも良いから癒してあげたかった。


それが俺のライルに対する想いの証明になるのなら。


そんな気持ちを込めて、…俺はライルの手を、ぎゅうっと握り直す。





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