BL
□先輩さまと後輩くん。
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「君に先代ロックオンの代わりは務まらない」
先輩兼・教官のティエリアが言った。
それは、ティエリアにほぼ毎日無理やりやらされている戦闘シュミレーションを終えた直後のことだった。
唐突に言い放たれた言葉に、こちらとしては唖然とするしかなかった。
「……何でだよ」
「はっきり言ってやろう。君に精密射撃は合ってない。
どちらかというと君は、早撃ちに向いている」
「え。……何だ、そっちの話か」
思わず安堵のため息をつく。
「ん?僕と君との会話の内容で、ミッションプランや戦闘シュミレーション関連の他に何がある?」
「…………。
お前がそれを自分で考えて何も思い付かないんだったら、別にそれで構わねぇよ」
…相変わらずティエリアの奴は鈍い。
それでも刹那ほどじゃない……、と思いたい。
つっても、このタイミングじゃあ、ティエリアの発想の方が正しいな。
俺が意識しすぎてるだけか。
「あ!…そうか、ニールの素晴らしさについて語り合いたいんだな!?」
途端に目をキラキラ輝かせるティエリア。
…何でそうなるんだよ。
お前の思考回路がマジで意味わかんねーよ。
大体、よくそんなこと恥ずかしげもなく言えたもんだ。
──そういう言葉が俺の神経を逆撫でさせるってことに、気付きもしないで。
「………そんなに兄さんが好きなのかよ?」
嫌味を含んだ俺の発言に、今度は漫画みたいに固まるティエリア。
「………、まあ、その。す、好きだが。それがどうかしたか?」
「……………へぇ」
俺は一瞬だけ、驚きに目を見張る。
まさか正直に答えてくれるとは思わなかった。
ていうか。
──本当に好きなんだ。
…まあ、言われなくたって前々から何となくわかっていたことだが。
そんな俺の様子から何を読み取ったのか、ティエリアが慌てて弁解し始める。
「い、一応言っておくが、仲間として好意を抱いていたという意味だからな!?」
…とか言いつつも顔が真っ赤だし。
そんなティエリアの様子に、俺は内心で思い切りため息をつく。
「…。じゃあよ、兄さんのことが好きな理由って、何だったんだ?」
「っ?……何と、言われても……」
「何かあるだろ。性格とか。見た目とか」
自分でも無意識に「見た目」の部分を強調してしまっていた。
そんな自分に対して少し苛立った。
──…まったく、どんな質問してんだ、俺…。
「…見た目、というのは無いと思う」
あっさり即答するティエリア。
………あっそう。
「……だが、綺麗な笑顔の仕方をする人ではあったな…。
…もちろん僕が彼に惹かれた理由の大半は、彼の人格が尊敬に値するものだったことにあるんだが」
そう言ったティエリアの表情は、赤面しながらもどことなく嬉しそうだった。
…何でそんな顔してんだよ。
イライライライライラ…とかいう擬音を、今なら出せそうな気が本気でした。
そんな心情からなのか、俺はもう1つ質問をしてみる気になった。
「……なぁ、ティエリア先輩」
「…、何だ、ロックオン後輩」
「じゃあ、俺のことは、……どう思ってんの?」
「…何?」
俺より背が低いティエリアは、こちらを上目遣いで覗き込み、小さく首を傾げた。
その仕草と幼い顔つきのせいもあって、まるで子供みたいに見える。
「何故、そんな質問を…」
「いいから答えろって」
思わず強い口調で言ってしまった。
──ティエリアの瞳が、一瞬揺らぐ。
それでも俺から目はそらさない。
「…君のことは…その。ライル、の、ことは…」
「俺のことは?」
「………………僕は、ライルを……」
……………………。
…………。
何だこの無駄に長い間。
………、何か柄にもなく緊張してきたぞ?
つーか早く言えよティエリア。
…それが駄目なら、いっそ何も言うなって。
「………、僕はライルのことを…、ニールとは別の面で一目置いている。以上だ。」
……シ────ン、とかなり長い沈黙が訪れた。
「……は?それだけ?」
「それだけ…だが、何か問題でもあるのか?」
疑問符を浮かべまくるティエリア。
……こいつ、あれだけ間を空けて言った言葉がそれかよ。
つくづくムカつく奴だ。
……そんなんじゃ俺は満足出来ないって。
俺はティエリアから、そっと視線をはずして辺りを見る。
───幸か不幸か、周りには誰もいなかった。