BL

□シークレット
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1時間後。



最近流行りの映画についてだの、あの国の政権はいまだに整わないだの、他愛のない話をして過ごしていると、

ライルが次第にうとうとし始めた。

会話の途中から既に相当眠たげだったが、遂に限界が来たらしい。

酒瓶のほとんどを飲んでしまったのだから、当たり前と言えば当たり前だった。

俺はいざという時ライルを介抱できるよう、あんまり飲んではいなかった。



「眠いのか?」


「…ん……。さすがに……」



それだけ言うと、ライルはベッドに倒れ込むように寝転んだ。

どうやら本格的に眠るつもりらしい。

…まあ、今までの疲れもあるだろうし、たっぷり休んだ方が良いだろう。

ライルはベッドの上で横向きになると、うっすら開けた瞼で俺を見た。



「………おやすみ、兄さん」



それだけ言うと、ゆっくりと瞼が閉じられる。

その様子を見つめながら、俺はそっと返事をした。



「…おやすみ」



…………しばらくしてから、寝息が聞こえてきた。

よくよく見てみると、ライルは毛布もかけずに眠ってしまっていた。

ったく、風邪引いたらどうするんだか。

何だかんだ言っても無防備なライルに、俺は苦笑を浮かべる。

仕方ない奴だな…と呟きつつ、ベッドの端で丸まっていた毛布を引き上げる。

そのまま毛布をかけてやろうと、ライルに近づいた。



と、その時。



唐突に、

ぱちり、とライルの瞼が半分程開いた。

俺の視線とライルの視線が、完璧に重なる。



「…………」


「…………」


「…………」



今の状況

ベッドに寝転んだライルくん
 +
その上に覆いかぶさっている(ように見える)俺
 =
死亡フラグ

………。

…………………やべ。



「…ち、違、別にお前の寝込みを襲おうとした訳じゃなくってだな……!」



慌てて弁解する。

これ以上ライルの中で俺の株が下がったりしたら、本気で口を利いてもらえなくなるかもしれない。

そんなことは絶対に避けたかった。

―――が、

俺の言い訳に対するライルの返事は、全く予想外のものだった。



眠たげな瞳で俺を見て、

そして突然、俺の服を両手で掴んで引き寄せ、




「――…!」




ちゅ、と。

可愛らしい音が、間近で小さく鳴った。

……唇に、柔らかい感触がした。

―――キス、された。



「…っ、」



戸惑いを隠す余裕もなく、俺はライルを見遣る。

……ライルは赤くなった顔で、黙って俺を見つめていた。

その手はいまだに俺の服を掴んでいる。

訳が分からずじっと見つめていると、ライルが俺から視線を外して俯いた。

それから、小さな声で呟く。



「……て……たのに…」



「…え?」



声が小さすぎて聞き取れず、思わず聞き返す。

するとライルは突然顔を上げ、僅かに潤んだ瞳で俺を睨むように見た。

そして今度こそ、はっきりと言う。



「……俺。兄さんに会うの、我慢してたのに…っ」



途端、悔しそうな表情になるライル。

いつもより明らかに、感情が素直に表に出ていた。

酔いのせい…なんだろうか。

いや、そもそも、



「我慢…て……、何だよ?」



「…………」



黙りこむライル。

けれどしばらくして、小さな声で呟く。



「………疲れてる時に兄さんに会ったら、……甘えたくなるだろ」



ライルの顔が真っ赤に紅潮する。

……赤くなった理由は、おそらく酒のせいだけでは無いのだろう。





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