テロリストの子育て

第8話
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ここ2週間船内は師走を思わせる空気が流れている

晋助は江戸と地方各地を行ったり来たり

1泊する時もあるが母船に戻る事が殆ど

深夜に帰宅しては早朝に出ていく事の繰り返し

供をする者は交代で行くが頭の替えはない

わざわざ苦労して戻るのは彼が自分の布団でなくては眠れない潔癖だからではない

一回家に帰らないとon/offの切り替えが出来ない人間だから

でもない

全てはこの小さな寝息を立てる姫の為




「美月…オイ……」

ほんの少し前まではその手で朝まで女を鳴かせていたのに今は遠慮がちに子供の頬をつついている

少ない睡眠時間できちんと起きられるのか心配して様子を見に来てみれば……

「まだ5時であろう、起こすには早すぎると思うが?」

拙者の声に綻んでいた顔もきゅっと締まる

「うるせぇ、美月が起きる」

「起こそうとしていたのは何処の誰だか」

せっかくだ姫の顔でも見て行こうと布団に近づく
晋助の趣味か子供のかけ布団にしては派手な色使いの羽毛布団

ん?この羽毛布団はまさか

「晋助、まさかとは思うがこの羽毛布団…最高峰と言われる」

「アー何とかって言ってたな」

「アイダーダックダウン‼️」

「知るか、コイツ用に誂えさせただけだ」


恐ろしい、恐ろしい
最高品質の羽毛を3歳児に…

「万斉見てみろ」

ああ、これは…
幼児らしいと言うのか…
高級羽毛布団の事等気にもせず、体は布団をはね除け
手足を縮めうつ伏せで寝息を立てている

この丸々としたフォルムは―――

「愛しくて堪らんでござるな」

「何度かけてやっても気が付くと布団から出てやがる」

そう言って布団を掛けなおす姿は娘を愛する父親そのもの

最近は美月とすれ違いの生活
このまま二人でゆっくり過ごさせてやりたいが……

この男にはそれも許されない

「すまないが、そろそろ行かねば」

「わかってる。ところでコイツはちったぁ泳げるようになったのか?」

「それが、全くダメらしい。水に顔をつける事もまだだとか」

「はっ、通わせて正解だな。……風邪引くなよ」

頭を一撫でし髪にキスを落とす

見ているこちらが恥ずかしくなる程の溺愛ぶりに少し羨ましくも思う

子供と言うのはそれ程の存在なのか
いつか拙者も子を持つのか………

いや、鬼兵隊に二人も親馬鹿はいらぬな…





ーーーーーーー


「水泳等わざわざ習わせなくても晋助が教えてやればよいのに」

「……………」

「ん?」

「……………」

「あぁ、なんだ。そうであったか。そうか、そうか。我等まだ知らぬ事があったか」

「黙れ、それ以上言うんじゃねぇ」

「ふっ、美月には秘密でござるな」




つづく
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