テロリストの子育て

□第5話
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ここ最近美月に避けられている
それはもう明らかな避けっぷり

「美月、今日は上手い甘味を…」
『きゃああ!こないでェェェ』

食事中も―――

「美月、降りろ飯が食えねぇ」
『いやっ!』

美月は、ぶんぶんと顔を横に振る

そして、必ずこの後晋助が拙者を見て憫笑し美月を膝に乗せたまま食事をすると言う無限ループ

気づかぬうちに美月の気に障るような事をしただろうか?
それにしてもあの笑いが腹立たしい

美月が来てから晋助は変わった
いい意味で変わった
そして拙者に対しての態度も変わった
悪い意味で……
まさか嫉妬では?
まさかな…

そんな事を考えながら歩いていると前から美月が歩いてくる

避けられるのを覚悟で立ち止まっていると2メートル前まで近づいてきた

晋助に貰ったものだろうか、小さな手に乗った金平糖を色分けしながら歩いている

何故歩きながら?
転ばなければいいが……
と案じた時"ベチン"と痛々しい音を立て美月は転んだ

これは痛い、大人でも痛い
膝が痺れているのか中々起き上がらない

黒い床に色とりどりの金平糖が散らばっている

おぉ、これはこれで中々綺麗ではないか

と、それよりこの状況に拙者もまた一歩も動けずにいるのだがーーー

どうするべきだ?

勿論大丈夫か?と手を差し伸べたいが、余計な事をして泣かせても…
痛みに強い子供もいるかもしれん
それに本人が必死で耐えてる所に声をかけるのも……

狼狽えている間に立ち上がっていた美月
目がバッチリと合う
これはまずい……

『う、うぅっ、コンペ……。う、う、ううううわああああん‼️いたいー‼️あああ、ばんざいーいやー‼️もうぜんぶいやああぁん‼️』

ここまで盛大に泣かれては見て見ぬふりは出来ない

「すまぬ、嫌かもしれんが膝を見せるでござる」

血は出ていないか確認するが平気なようで、赤くはなっているが擦り傷ではない

「今のは痛かったでござるな、だが幸い血も出ておらぬ、もう大丈夫だ」
『あぃ。ありがとー、う、う、うぅ』
「礼を言えるとは立派だな」

頭をポンと撫でてやると涙こぼれる瞳がこちらを見上げる

『ばんざい先輩はやさしい人?』

そう聞かれ肯定するのも恥ずかしいが子供相手に…
ましてやあまり嫌われたくない相手故、肯定する事にした

「万人にどう映っているかはわからんが、美月には優しくありたいと思っているでござる」
『じゃあ美月のことブタさんにはしないでぇぇぇ‼️』

そう言うと再び泣き始めてしまった
なんの事かさっぱりわからない
正直困ったーーー
泣いてる子供に話を聞くのは一苦労だ
まずはどうにか泣きやんでくれぬものか………あ‼️‼️

小さな体を抱き上げ自分の肩に乗せる
子供とはこんなに軽いのか…
子供を肩車するなんて初めての事で歩き出しがぎこちない

『へ?へぇ?わっ!た、たかーい!』

表情は見えないが掴みは悪くなさそうだ

「どれ、少し走ってみよう」

せっかくなので甲板まで出てみる

『わーーーあ‼️おそらを飛んでるみたーい!』
何とか機嫌は直ったようだ
余程肩車が気に入ったのか
"つぎはアッチー!こんどはコッチー!ジャンプしてみて‼️"とリクエストが止まらず、こちらの息が切れ始める
だが、子供の楽しそうな声を聞くとつい張り切ってしまう
こ、子供とは何と不思議な力を持つ生き物か……

流石に息も上がりきり、一休憩と立ち止まると

『ばんざい先輩!こっちむいて!』
「ん?」
顎の辺りを掴まれグイっと半ば強制的に顔をあげられる

「ぐえっ」
『ちゅっ!』
「……ん?」
『ちゅっ!うれしい?』
「え、いや…。」
『もう一回ちゅうう』

何回も自分の額辺りに降り注がれるキスの嵐

『さっき、れいをしてりっぱ!ってほめてくれたから、いっぱいありがとうのチュウしてるの!ちゃんとありがとうするから、ブタさんにしないってやくそくして?だめ?』
「待て、待て、さっきからブタとは何の話しだ?」

………………。
避けられている拙者を見て楽しんでいたのか…
晋助も趣味の悪いイタズラをするものだ

「このサングラスはただのファッションだ、ほら取ってもビームは出ん」
『なーんだ!あっ、ばんざい先輩可愛いおめめだね』

可愛いなど言われた事がないからか顔が少し熱くなる
おなごの可愛いの基準とはいったい…

『しんしゅけ様うそついたのかなー?』

美月の晋助に対する信頼を壊してしまうのは気が引ける

「あー忘れていたが、そう言えば昔一度だけビームを出した事もあったでござる」
『えっ‼️』
「それは仲間を守る為だ、この力は仲間を守らねばならぬ時のみ発揮される」
『カッコいいね!ヒーローみたい』
「……………」

世間から見れば自分達はテロリストであり悪役
だが、子供の前だけならヒーローになりきって見てもいいだろうか


ーーーーー

『ファッションとかっこつけはちがうの?』
「え?」
『しんしゅけ様がアレはただのカッコつけって!』

あんな奴庇うんじゃなかった…




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