とらいあんぐる・ブック
□ (3)
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まっすぐに歩いているつもりなのに、隣の樺地に何度かぶつかって、自分の足がフラついていることを鳳は知った。
前を向いても俯いても空を見上げても真っ暗で、平衡感覚があきらかにおかしい。
失恋って、こんな辛いことなんだ……と、思い知る。
嫌われてしまった原因だとか、これからどうしようだとか、そんなことはなにひとつ浮かばなくて、さっきの宍戸の言葉とか表情ばかりが繰り返し浮かび、体中が切られたみたいに痛かった。
いっそ死んでしまいたい。
ごく当たり前のようにそう考える。
だって、痛いし。苦しいし。
「……変だ」
急に、樺地の声がした。
真っ暗闇の中、声のしたほうを向くと、まるで井戸の底を覗いたような目があって、ぐらりとまた体が傾ぐ。
けれども腕は、いつの間にか大きな手に捕まえられていた。
「なんだその酷いツラは」
また、声がしたのですこし驚いた。
気がつくと中等部の部室前に来ていて、驚いた顔の日吉がいる。
いつの間に……と、不思議に思いもしたが、どうでもいいような気もした。
どうでもいい。
なんでも、どうなっても。
だって、終わってしまったのだ。全部が。
途方に暮れたような宍戸の表情と、焦ってつむぎ出す声とが頭から離れない。
そんなに、いつから、厭になっていたんだろう。
分からない……が、それも、もうどうでも良かった。
痛い、とだけ重いながら、ただぼんやり立っていると。
「もういい、樺地、こいつ連れて帰れ」
日吉が眉間に皺をよせて、そう言った。
様子で察してくれたのか、色恋沙汰になどもともと興味がなかったのか。
彼にまで捨てられたような、なんともいえない心細さ。
けれど、樺地は動かなかった。
「……変なんだ、日吉」
「なにが」
「宍戸先輩は長太郎を愛してる」
日吉は顔を歪め、鳳は、否定したかったが、声の出し方を忘れてしまったまま。
妙な沈黙が続く前に、日吉が聞いた。
「そんなの、なんで樺地に分かるんだ」
「俺、分かる」
「ずいぶん自信もって言うんだな」
「ウス」
それはいつもの彼特有の返事だったが、
どこか幼い子どものような素朴な響きをもっていた。
「俺も、長太郎を愛してるから、分かるよ」
「え?」
日吉は怪訝そうに樺地を見つめ、それから、涙でぐちゃぐちゃのままぼんやりしている鳳の顔を見た。
「樺地……それは、例のコピーか? 人の気持ちまで写すのか、お前は」
「知らない」
違う、ではなく、知らないと言って、樺地は首を横に振る。
それから、誰に問うでもなく呟いた。
「なんで、宍戸先輩は、長太郎を悲しませるんだろう……」
ここが……と、樺地は胸をおさえる。
「切られたみたいに、痛い。長太郎が泣くと、俺も、痛い」
「けど、樺地……」
「宍戸先輩も、同じ」
どうしてだろう……と、樺地は呟き、日吉は、意味が分からないという顔で溜息をついた。