かばちょたSS

□樺地って魔法つかえる?
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 恋愛相談なんて面倒がるだろうと思っていたのだが、
 宍戸は案外、親身になって聞いてくれるのだ。

「……まあ、相手が樺地じゃな。驚くよな」

 最初に打ち明けたときも彼はそう言ったし、
 今でも時々、同じことを言う。
 
「正直、俺もあいつらデキてんのかと思ってたし」
「……そうですよね。ラブラブに見えますよね」
「けど、俺たちのことも誤解してるヤツ、いるみてーだからな」
「え、誤解じゃないです、俺、宍戸さん大好きです」
「おいおい、これ以上話をややこしくすんなよ」
「あ……はい」

 うなだれると、宍戸は呆れた顔をして、顎の下をかいた。

「……この目線かもなあ」
「はあ」
「見上げてる俺だって、オマエにそういう態度とられると一瞬、かわいいかもって思っちまうんだよ、樺地から見るとすげー可愛いのかも」
「だったら、向日さんとかジローさんの方が」
「あいつらじゃちっさすぎて恋愛の対象になんないんじゃねえ?」

 そうなんだろうか。
 自分は大きいから樺地に愛されてしまったんだろうか。
 そういえば、樺地本人がそんなことを言っていたけど……

「じゃ、体目当てってことですか……」

 宍戸は缶コーヒーを吹いた。
 自分の言ったことの微妙さに気がついて、鳳は頬を赤くする。

「そういや、昨日言ったこと。考えてみたか?」

 気を取り直して、宍戸、アドバイスモード。
 鳳は困った顔で応じる。

「樺地のいいところですよね。授業中に考えてみたんですけど……」
「え、違うって。いいところじゃなくて」
「違うんですか?」
「違うよ。いいとこなんて……あいつ、いいとこだらけじゃん」
「そうなんです。なんか俺、考えてたらこんないいヤツに告白されたのになんで悩んでるんだろうって、すごい 自分が贅沢者に思えちゃって……」
「だから」

 楽しそうに、宍戸は目を細めた。

「いいとこじゃなくて。好きなとこを10個書けって」
「それって、同じじゃないですか」
「全然違う」
「ええ、同じだと思いますけど……」
「いいところと好きなところが全部同じだったら、それは恋愛の好きじゃないぜ」

 鳳は、目をぱちくりさせた。
 ついでにポカンと口もあける。
 かなり間抜けな顔だが、鳳は今、感激している。宍戸さんがなんだかすごく先輩らしいオトコマエなことを言った!! ……と。

 恋愛の好きではないけれど、
 長太郎のこういう無防備なところが、俺は好きだな。いいところかっていうと微妙だけどさ。
 宍戸はそんなことを考えて、それから、跡部のことを思い出した。

 樺地の好きなところ?
 ああそうだな、意外と頑固で融通がきかなくて……知ってるか、あいつあれですげー我侭なんだぞ。景吾くんはカッコよくなきゃダメだとか言いやがって、いきなり俺に対する期待値高えの。自分は楽して後ろで「ウス」とか言ってるだけなのに、俺様は常に輝いてないとダメだとか隙見せるなとかなに図々しいこと要求してやがんだアイツ。本人はめちゃくちゃズボラで面倒なことは全部この俺様に押し付けやがるし、つうか、あいつ本当はなんでもできんだぜ、頭だってかなりいい方だし。けど、好きなことしかしやがらねえ。だいたいな、喋るのが嫌いだからっていつまでたっても日本語をマスターしないとかありえねえだろ。やりゃできんのになんでしねえんだよ。俺様の言うことなんざ聞いてるようで聞いてねえし、いっつもボーッとして危なっかしくて、それに、

「ストップ。跡部、それ、なんだ。誰が樺地の悪口並べろって言った」
「アーン? テメェこそなに言ってんだ、だから、好きなとこだろ」

 樺地のそういう、でかい図体して甘ったれたところが好きだから困ってんだよ、直せって言いたいんだ本当は。
 ……と、跡部は言った。
 まるでそれが何千年も前から続く世界の真理でもあるかのような口調で。

「樺地の、好きなところ……」

 対して、つい最近、彼の内面と対峙するはめになった鳳は、真剣な目をして考えている。
 寒空の下で冷えてしまった缶コーヒーの残りに口をつけ、宍戸は答を待ってみた。

「……手が大きい……目が可愛い……」

 呟いて、何故だか鳳は真っ赤になった。
 宍戸がびっくりするほどに。

「どうした?」
「え? あ……」

 もじもじと、鳳は指を弄り出す。

「な、なんか俺、か、樺地の顔、好きかも……って、思って」
「へ?」
「わ、分かってるんですけど、一般的にハンサムって言われる顔じゃないのは、でも」
「一般的にいいとこじゃない『好きなとこ』が見つかったわけか。つまり、恋愛の好きだな」

 おめでとう、つきあったらいいじゃん。
 コーヒー缶を、かつんとぶつけたら、鳳は卒倒しそうな顔をしている。
 あいたほうの手で額を押さえたりもして、なんだか大混乱中だ。

「……し……しし、しど、さんっ」
「しが多いぞ」
「まじめな話、俺、樺地のこと好きなんでしょうか……」

 そんなこと知らないよ。
 でも、この反応からすると、嫌いじゃないんだろうなって、それは分かる。
 だけどこいつは真面目だから。
 真面目で一生懸命だから、間違ったとき相手が傷つくのを、恐れてるんだろう。

「……跡部が言ってたけど」
「なっなんですか!?」
「樺地は傷つかねーって。鈍感で図太くてぼーっとしてるし、打たれ慣れてるから。なにがあっても平気なんだってさ」
「そんなことっ」

 鳳はふるふると首を横に振る。

「そんなの、いくら跡部さんの言うことでも、嘘です、樺地は繊細ですよっ」
「……そうか?」
「そうです、関東大会のときだって」

 すとん、と。
 鳳が頭を抱えてしゃがみこんだ。

「すみません……ちょっと、ストップを」
「なんだ、どうした」
「宍戸さんと話してたら、なんだか、樺地を好きになっちゃいそうで」

 なんだよその、変な抵抗。
 鳳は真っ赤になって、涙目で、うう、とか唸って、額を押さえている。
 どうして額を押さえるのかというと、そこに樺地がキスしたからだ。
 考えてると、そこが熱くなって、早く好きになってって、せかされてるみたいな、変な気分になるからだ。

「……まあ、一ヶ月あるんだし、よく考えるんだな」
「うう」

 心臓がドキドキして脈が早くなって、すごく困る。
 恋なんてもうしちゃってるんじゃないかと、思ったりもするんだけれど、
 もしかしたら魔法をかけられただけかもしれないし。

「宍戸さん……」
「うん?」
「樺地って実は魔法使えたりしません? 跡部さんになにか聞いてないですか」

 オマエほんとわけわかんねえな。
 そう言って、宍戸は笑った。 

 だけどしかしたら、そんなことも、あるのかもしれない。

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