かばちょたSS

□彼の理由
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 鳳長太郎は背が高いので、同世代の中にいるとだいたいいつも頭ひとつ抜ける。
 樺地崇弘はもっと背が高いが、二人の身長差は5センチだ。
 だからしょっちゅう目があうのかなと、鳳は思っていた。

 鳳は部員数二百人を誇る氷帝学園男子テニス部の二年生レギュラー。
 樺地もそう。
 気がつくと樺地が近くにいることが多いのは、だからだろうと思っていた。
 身長のこともあって、柔軟などは組むことが多いし。

 ほぼ毎日顔をあわせる、仲のよい同級生に対して、
 自分がいろいろ誤解していたのだと、鳳が気づいたのは、たった今だ。

 よく、目があった理由。
 いつも、近くにいた理由。

 知ってしまえば、それは、ありがちではあったのだけど。




 場所は夕暮れたテニスコート。
 三年生が引退したばかりで、新体制はいまだ軌道に乗り切れてはいない。
 雑事が増えて、慣れない後輩指導にもてこずることが多い。
 そのため、新レギュラー陣には「練習が疎かになっている」という実感が強くあり、みんな遅くまで残って自主トレその他に励んでいた。

 暗くなり、日吉が号令をかけて練習終了。
 部室に戻るまでの短い距離、ふと気がつくと、樺地と二人きりになっていた。

「長太郎」

 と、樺地がふいに名前を呼んだ。
 寡黙な彼が口火を切るのはとても珍しく、しかも、ずいぶん前に自分が言った「名前で呼んでほしいなあ」も律儀に実行されたことに、鳳は驚いた。
 けれども、その次、続いた言葉には驚きを通り越して、真剣に耳を疑った。

「好きだから、恋人として、おつきあいしてほしい」
「はい?」

 とうてい、告白された人間がとるリアクションではない、間の抜けた返事を、鳳はした。してしまった。
 立ち止まり、ぽかんと隣の5センチ上にある瞳を見つめると、彼も足をとめ、同い年とは思えないほど穏やかで慈愛深い目でこちらを見つめている。
 長い沈黙に戸惑ったのか、樺地は、再び口を開いた。
 
「I want you to associate as a lover because it loves. and……」
「あっ、ごめん、伝わってる、日本語、変じゃないよ」
「……ウス」

 ほう、と樺地は溜息をつく。
 英国暮らしが長いせいか、樺地は「言葉が通じてない?」と焦ると、つい英語で言い直してしまうらしい。
 基本、喋らないから、人にはあまり知られていない癖だけれど。
 暗くてよく分からないが、樺地は耳も頬も赤いようだった。
 対峙し、言われたことの意味を改めて考えて、鳳はドキドキしてきた。
 信じられない、ありえない、と思うのに、自分もどんどん顔が赤くなってくる。

 女の子に告白されたことなら何度もあるし、
 実は、男にも言われたことがある。
 だから割と、慣れているつもりだったのだけれども、今回は予想外すぎた。

「えっと……」

 正直、冗談だよねと笑いたいのだが、樺地はたぶん、冗談を言わない。
 
「……どうして俺なの?」

 跡部さんじゃないの?
 告白の相手、間違えてないかな?

 鳳の頭の中では、その疑問がぐるぐるしている。
 内心、二人はつきあっているんだろうと思っていた。
 樺地が跡部を追いかけて日本にきた、という話はずいぶん前に直接本人から聞いていたし、彼らは、学年も違うのにいつもベッタリ一緒にいるし、他の人間が入りにくい独特の雰囲気、要するに「二人の世界」をいつも形成している。
 ラブラブバカップル、なんて揶揄する人もけっこう多いのに。
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