平安絵巻

□△「藤壺と梅壺」
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続いて向かったのは藤壺の奥に位置する凝花舎で梅壺とも言われている。


「お待ちしておりましたわ、主上!」

「やあ、貴女はいつも元気がよいね(笑)」


この女御は年が若いこともあり上品さでは他の二人に劣るが、明るい快活さが魅力だった。


「こちらが噂の瑠璃の神子様ですのね。まああ…!本当に髪も瞳も変わった色をしていますのねえ!」


その遠慮の無い視線や物言いに跡部はたじろぎ、帝の袖を握って背中に隠れてしまった。


「あら、男の子が意気地の無い仕草をなさってはいけませんわ。瑠璃様はいったいお幾つになりましたの?」

「11…;」

「噂に聞きましたけれど、瑠璃様はお一人では眠れないんですって?そのお年ではとても恥ずかしいことですわ!」

「……だ…だって暗いし…///」

「そんな事で主上を毎夜独り占めになさるなんて私、許せませんわ!」


弘徽殿の女御も遠慮の無い話し方だが、梅壺の女御もまたストレートすぎる話し振りだ。
若いだけに跡部に対して「大人気ない事はすまい」という意識もない。


「私は14才ですけれど、貴方よりもずっと幼い頃から一人で眠れましたわ。…あら、何をモジモジなさってますの?」


女御の言葉に帝はハッ!と跡部を見て、すぐに女房に命じて樋殿の用意をさせた。
藤壺でゆっくりしたため、跡部はまた尿が溜まっていたのだ。

だが、女房達の必死の努力にもほんの少しの差で間に合わず跡部はまた勢いよく袴を濡らしてしまった。


「きゃあっ!?;ま…まあっ、何てことでしょう!瑠璃様はお手水も満足にできませんの!?」

「女御様…!おはしたのうございます…;」


梅壺の女房が躊躇いがちに女御をたしなめた。


「信じられませんわ!11にもなって粗相をなさるなんて!」


「…ふっ…ふええっ…!(涙)」


その本当に遠慮のない物言いに、とうとう跡部は泣き出してしまった。


「…女御、どうかその辺で許してやっておくれ。さあ、瑠璃もそんなに泣くのではないよ。…仕方ない。お話はまたにして戻ろうか」

「まあ…そんな。やっとお渡り下さったのに…;」

「そうは言っても、瑠璃がこの通りなのでね。どうか次回はもう少しお手柔らかに頼むよ(苦笑)」


梅壺の女御は唇を尖らせて跡部を睨んだ。

だが俯き泣いている跡部は気づかず、帝に手を引かれるままに清涼殿に戻っていった。




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