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□△「雨の日に」(幸&跡)
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(寒い…っ;)
今、跡部はガチガチと震えていた。
この季節にはありえない寒さの今日。しかも小雨まで降っている。
傘はあったが風が吹いたりすれば全く濡れないわけはなく、身体は徐々に冷えてきていた。
(…トイレ行きてえ;)
前回少し遅刻したのを悪いと思い今日は早めに来たのだが、この寒空に既に20分も待っており、待ち合わせ時間までは更にあと10分。
(…30分前は、ちょっと早く来すぎたかもしれねえ;
あと10分かぁ…。今ならすぐそこの駅か店のトイレに行けば間に合うよな…;)
跡部が動き出したその時。
不意に携帯が鳴った。
「…はい。跡部です」
『あ、俺だけど。もう着いてる?』
「ああ」
『そう。こっち多分あと5分くらいだから、悪いけどもう少し待っててよ』
「分かった」
待ち人である幸村からの電話。
あと5分なら時間前には着くのに律儀に連絡を寄越してきたのだ。
(5分か…。じゃあアイツが来てからでいいや;)
今トイレに行けば行き違いになる。跡部は少し我慢することにした。
***
約10分後。
幸村は予定より遅くやってきた。
「待たせてごめん。ちょっと知り合いに呼び止められちゃって。寒かっただろ?」
「幸村…トイレ行きたい…!;」
「え;…ああ、分かった」
開口一番にそんな事を言われ少し戸惑った幸村も、跡部の青ざめた顔にだいぶ我慢しているのを知り、その背中を抱くように歩き出した。
***
「え…清掃中…!?;」
トイレの前の看板に悲痛な声があがる。
「他の店のトイレまで我慢できるかい?でも、無理なら頼めば多分入らせて貰えるよ?」
「…我慢する;」
2人はまた外に向かった。
***
我慢できるとは言ったものの限界は近かった。
妙に内股になり、小走りに急ぐ。
…だが、
ついには一歩も動けなくなってしまった。
「ゆき…幸村…っ(涙)」
雨の雑踏。
さっきより大振りの空の下、傘を差した人々が急いで雨から逃れようと動く中、急に立ち止まって小さく震えて。
傘を差しているのに傘を持たない人よりもずっとびしょ濡れになってしまった下半身…。
「……っく(涙)」
冷たい雨の降りしきる中、身体の中から溢れ出した温かい湯が一気に脚を濡らし…そしてすぐに冷えた。
その現実に跡部は泣いていた。
(続く)