平安絵巻

□△●☆「嵐」
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…その日は前日からの予想通りに昼頃から酷い嵐になった。


庭の草花は根から吹き飛ぶほどに揺れて、ごうごうと音を立てる風に太い樹の幹までもが折れそうだ。

稲妻が空を切り裂き雷が地を割る。
更に風に煽られ横殴りに叩きつける雨に歩くのもままならず、都中の者が家の中でひたすら嵐の止むのを待つばかりだった。


ここ内裏でもそれは例外ではなく、どの局にいる女房達もガタガタと震え、仏に救いを求めて経を唱える者、着物を被って耳を塞ぎ泣き濡れる者…それぞれだった。


それでも弘徽殿、藤壺ではしっかりとした女御達が恐ろしさを堪えながら毅然とした態度で女房達の精神的な支えとなっていた。

しかし、年若い梅壺の女御は雷が落ちる度にキャアキャアと騒ぎ立てているし、また麗景殿では怖がりの跡部もずっと泣いている。
元々、台風だとか雷だとかは大の苦手なのに、この平安の殿舎はイギリスで暮らしていた堅牢な城と違って外の音もろくに遮らないし風にもグラグラと揺れて恐ろしくて堪らないのだ。



「主上…主上は来てくれないの?(涙)」

「この嵐では清涼殿からお出ましになるのはとても無理でございます;」

「怖い…怖い…誰か助けて…(涙)」



跡部は震えながら助けを求めた。




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