平安絵巻

□○「麗景殿」
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「…ねえ、主上…;」


着替えを済ませてようやく落ち着くと、跡部は躊躇いがちに話しかけた。


「うん?何だね?」

「俺はホントは主上と一緒に寝たらダメなの? 弘徽殿様も梅壺様もすごく怒ってたもの…;」


不安げな問いに帝は微笑んだ。


「そうだね。駄目とは言わないが、できれば段々と一人で寝た方が良いね。それに…私も天皇として果たさねばならぬ役目があり、そのためには夜は女御達とも寝なければならないのだよ」

「……分かった。今度から一人で寝る;…怖いけど頑張る;」


一国の主ともなれば大事な役目も多いだろうし、その邪魔をしてはならないのだというくらいは分かる。
この国に迷い込んでからの間、清涼殿の中であれば好きにさせて貰ってはいたが、それでも儀式や公務の時だけは邪魔をしない約束にもなっていた。


「でも…そしたらどこに寝たらいいの?空いてる部屋がある?」

「ああ…そうだね。それでは瑠璃にも殿舎を一つ与えようか」

「本当?どこ?近く?」

「麗景殿はどうかな。一番近くの弘徽殿と藤壺は既に女御が住まわれているし、瑠璃は女性よりも身軽に動いてよい身だからあの程度の距離ならばどうという事はないだろう」

「う…うん;でも…麗景殿に行ったら、もうここには来ちゃダメなの?;」

「いや、そんな事はない。瑠璃は特別だから好きにして良いよ(笑)」

「よかった…!」



いかにもホッとした様子に帝はまた笑みを誘われた。


「それでは色々必要な調度を新しく揃えてあげよう。それに、女房達も増やさねばなるまいな。それから…」

「お風呂…!お風呂欲しい!;」

「分かったよ(苦笑)」


清涼殿の中でも特に跡部に仕えていた女房達はそのまま一緒に付いていく事になり、それにもかなりホッとした。


「よかった!皆も来てくれるなら何とかなるかも…。…ぁ…っ!?;ん…っ;」

「…あっ!瑠璃様…!;」



不安と緊張が解けた拍子に急に前を押さえた跡部に、女房達は急いで屏風や几帳を立て始めた。






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