平安絵巻

□△「翌日」
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さて、目が覚めると跡部は昨日の事が夢でない事を知った。
それには酷く落胆したが、すぐ横に優しかった帝の姿を見て少しホッとした。

トイレに行きたくなったので帝に言ったが、宮中は身分ごとに取り次ぎ取り次ぎの連続で、支度ができるのには時間がかかる。
樋殿までは間に合わぬとみた帝の命で係の者を大急ぎでその場に呼んで、恐れ多くも帝の御前で済ませた。

ありえない事だが跡部は神の子の扱いだから決まりごとはことごとく無視される。帝がとにかく可愛がって何でも許すものだから尚更だ。
子供のいない帝にとっては、この世の何も分からずおむつまで必要な跡部は大きな我が子のように思えるのかもしれない。


「八時になると湯殿に行くから、お前もその後の湯を使って良いよ。毎日湯浴をするのだろう?」
「うん。あの…ご飯はその前に?」

「腹が空いたのか?十時までは待って貰わねばならぬが…」
「ええっ!?; えっ…じゃあお昼ご飯は何時?;」

「食事は十時と夕方四時の二回だ」
「えっ!;」


一日二回というのも慣れないが、そんなに我慢したあげくに出される食事はどんな物か…。
跡部には何となく期待が持てなかった。
食べ慣れた洋食はまず無いだろうし、大昔の事だから味付けも違うだろうし、内容もとても貧しいかもしれない。

『まさか…雑草をドレッシングも無しに生で食べるとか、泥つきの芋とか蛇とか虫とか出るんじゃ…;』

考えたくないが、何か口にしなければ死んでしまう。
とにかく体験してからだ、と覚悟を決めた。



***


帝の入浴は儀式を兼ねるので段取りやら決まりごとやらが多いが、跡部が使う分には特に何もない。
神の子に対する決まりごとなど元々無いからだ。

着物を脱がして貰って体を洗い、湯をかけて流す。
できれば新しいお湯でシャワーも欲しいが、他の者の入浴頻度や風呂の用意の大変さを聞いたらこれ以上の我が儘は言えなかった。

だが、髪を洗ったら叱られたのには驚いた。
なんだか、髪を洗う日は決まっているらしい。

でも部屋に戻ってから「痒くなるからできれば毎日洗いたい」と帝に頼んで、凶日以外は許された。
そうなれば、周りの者もさっき言った通り神の子は例外と諦めているため文句は言わなかった。

どこまでも甘い帝に可愛がられて、跡部はむしろ自宅では甘えられなかった反動のようにそれにたっぷりと満たされた。




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