平安絵巻
□△▲●「初めての夜」
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殆どの者を下がらせて、帝は跡部を着替えさせるように女房達に指示した。
だがボタンを使った服など無い時代でまごつく彼女らの前で、跡部は恥ずかしがりながらも自分でシャツを脱ぎ捨て、ズボンと下着を脚から抜いた。
すると、ササッと乾いた布で濡れた所を拭かれ、それからいきなり衣装を持った者がそれを着せようとした。
「えっ!;シャワー…は無いか;お風呂とか…借りられないのか?;」
「風呂?とは?」
「まさか、無い!?あの…お湯に入ったり体を洗う…部屋で…!;」
「ああ…湯殿か。あれは私は朝に儀式としても毎日使うが…」
「ほ…他の人は?;」
「毎日は使わぬな。数日に一度は入るが、髪を洗うのは月に一度ほどだろう」
「ええっ!?;」
「そなたの育った国では違うのか」
跡部は自分は毎日風呂に入り、髪も毎日洗うのだと説明した。むろん顔も洗い歯も磨き、服の洗濯も毎日するのだと。
帝は神の子のためならと跡部のための湯殿を用意させると約束し、だが今は濡らした布で清めるだけで我慢させることになった。
***
とりあえず用意された着物を着せてもらった跡部だが、パンツもなく袴を穿かされてどうも落ち着かない。
ここは恐らく大昔の日本かそれに似た世界で、電気も水道もないし習慣も文化も違うという事は分かったが、カルチャーショックも甚だしい。
そういえば寝かされていたのもベッドでも和布団でもなかった。
風呂に入りたくても湯を沸かすのすら一苦労らしい。
ガスも冷蔵庫もなく、食事もいったいどんな物が出されるのか…。
そこでふと跡部は重大な疑問が浮かんだ。
「…ト、トイレは?;」
これもすぐには通じなかったが、真っ赤になりながらも説明すると、やっと排泄をする場所だと分かって貰えた。
「それとなく仕草をして下さいましたらすぐにご用意いたします」
答えたのは今夜から跡部に仕える事になった古参の女房だ。
「用意って…;」
「小用であればこれへ。お樋殿にてお手伝いいたしまする」
ただの竹の筒らしき物を持った下級の女官らしき者を示され愕然とする跡部。
『ウソ…だろ!?;えっ…じゃあ…ウンチは…;;』
嫌な予感しかせず、冷や汗が流れる。
「大便はこちらの箱をご使用頂きます。瑠璃の君のため、主上が新しくご用意下されました」
何やら立派な箱に見えるが、だがしかし見慣れた便器ではなく『箱』である。
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