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□はじまり(完)
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世の中なんてつまらない。
厳格で家庭を顧みず、政治家で仕事一筋の父。
研究で忙しかったが、俺のことを大切に思ってくれていた母は事故で失った。
幼い頃から父の気を引こうと努力を重ねてきた。結局試験やテニスの大会で1番になろうとも、父にとっては当たり前のことだった。
それでも習慣になってしまって、結局1番を譲ることはなかった。ぐれて非行に走るなんてバカらしいと思ったし、かといって何か熱中できるものなどなかった。唯一の趣味と言えば、マイクロユニットくらいだろうか。それでものめり込むほどではなかったし、集中して時間を潰せるからという理由で始めたものだった。
そしてまた灰色の世界が始まる。
この春から高校生になり、マンションで一人暮らしをすることになった。家にいても一人で暮らしていたようなものだから、場所が変わるくらいでなんの支障もない。実家から遠く離れた名門進学校であるSEED高校を選んだのは、少しでも父から離れたいという思いからだった。
ブレザーに身を包み、鏡に全身を映して身なりを整える。少しネクタイを締めなおして、鞄を手に部屋を出た。
特に高校生活に期待など抱いていなかった。親の権力や俺の容姿、能力にひかれて声をかけてくる輩はたくさんいた。無下にあしらえば余計なことになることはわかっていたから、我ながら人当たりよく接していた。それでも一線を越えさせることはなかった。
俺は他人に興味がなかった。何にも、興味がわかなかった。
―たった一人との出会いで自分の世界が変わるなんて、想像もしていなかった―