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□泳ぎ疲れた私を救って
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 大切とか一番とかそんな言葉で束縛する。
 自分勝手で何もかもが思い通りなんて思ってなかった。それでも、愛しいとそう思っていた。優しさに一度でも包まれてしまえば、抜け出すのは難しいのかもしれない。



 好きにならなければ良かったなんてことを考える日が来るとはわたしは想像もしていなかった。
 貴方の「好き」という感情が偽りだったのならば、わたしの「愛」も嘘になってしまう。
 だから、その前にわたしを愛してくれて有り難うと、伝えさせてください。

▼△

 中1年の頃から2年に進級してからのしばらくの間まで付き合っていた彼氏と別れた。別れ話は相手から切り出された。

 理由は「お前のことを恋愛対象として見れなくなった」ということらしい。よくある理由だけでわたしは切り捨てられた。思えば、わたしにも非がないわけじゃなかった。でも、改めて別れ話を切り出されるとショックなのは確かである。

 多分、恋愛対象として彼はわたしを一度も見ていなかったんだと思う。告白はわたしからだったし、デートでも気にかけてくれるようなことは少なかった。何より、友人から浮気をしているところを見たということを聞かされたから。

 こんなどこのドラマですかと思いたくなるほどの展開だが、少なくともわたしは彼が好きだった。傍で凛とした表情で歩く姿が何より好きだった。

 体育とかスポーツをやっている時の一生懸命な姿を見るのがたまらなく幸せだった。
 でも、それももう、出来ない。何故なら、彼にはわたしと別れてすぐ、新しい彼女が出来た。嗚呼、わたしはいらないということを実感した。

 苦しく痛み出す胸と心を抱きしめながら、わたしは日々を過ごしていた

▼△

 あれから何が変わるわけもなくただ、本当に何もなかった。新たに恋をするという気分にもなれずにわたしは友人と遊んだり、勉強をしたりと彼と付き合う前に戻っただけだ。
 しいて言うなら変な奴に好かれてしまったということかもしれない。

「渚っち〜!」
「……また来た」

 人の名前を大声で呼ぶそいつは満面の笑みでこちらに近づいてきた。

「またってなんすか!」
「休み時間の度に来られるわたしの気にもなれ」
「だって、渚っちに会いたくて……」

 人の名前の語尾に「〜っち」と付けるこいつはバスケ部に所属していて、モデルとしてもなんか活躍している黄瀬涼太だ。

 こいつとの出会いは屋上で昼食中のわたしの下に現れて、仲良くなったという経緯がある。それから、何でかは知らないがこいつに懐かれた。まるで犬みたいなこいつに。

「会いたくてもせめて、昼休みとかにして。あんたはただでさえ、目立つんだから」
「うぅ〜。わかったっす」

 わたしが強く言うと彼の頭の上に見えていた犬耳と尻尾がしょぼーんと垂れてしまっている。こいつは本当に犬のようだ。

「……昼休みにジュースを奢ってくれたら許す」
「っ! 約束っすよ!」

 さっきまでしょぼくれていたと思えば急に笑顔を浮かべる。何故、こいつがわたしにここまで懐いてくるのかがわからないが、今のところただの友人レベルなのだから別にいい。しかし、これ以上仲良くなってしまえばファンの子から制裁をもらうかもしれない。

 だから、友人というスタンスをわたしは守り続ける。それがわたしにとってもこいつにとっても一番、いい。




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