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□その愛に答えた時
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 好きな人がいた。それは過去形のことで今は好きな人なんていない。周りの友人達は彼氏を作って幸せそうに笑っているのを見て、わたしも彼氏が欲しいなと思ってしまう。

 それでもわたしは人を好きになってもその感情が長続きしない。わたしはそうゆう感情の薄い性格をしているのだ。

「つか、わたしの友達が全員彼氏持ちってどうゆうことだと思う?」
「ただたんにお前が人を好きになれないという自業自得だろう」

 もっともなことを言うのはわたしがマネージャーとして所属している帝光中学バスケ部のキャプテンである赤司征十郎だ。

 本来なら今の時間は部活なのだが現在、帝光中学はテスト期間である。なのでわたしは同じクラスでバスケ部のよしみで勉強を教えてもらっている最中だ。

「渚は人を好きになっても長続きしない。それ以外に理由なんて何もない」
「きょ、今日はいつも以上にきついですね……赤司君……」
「いつもと変わらないつもりだが?」

 隣同士で机に向かい、必死にテスト勉強をするわたしはちらりと赤司を見る。綺麗な赤色の髪に左右で違う瞳。毒舌で若干の俺様な性格を除けば普通にイケメンな部類に入るのに自分に逆らう奴には容赦ない。

 それさえなければもっと女子にモテただろうに。いや、今でも十分にモテるのだが。

「どうした? 間抜けな顔をして」
「間抜けな顔なんてしてないつもりなんだけど」
「で、人の顔を見るのがそんなに楽しいか?」
「んー……なんとなく、思ったことがあって」

 赤司の顔を見てふとわたしは思った。それを直に彼に言った。

「わたし、赤司を好きになれば良かったかなって」
「…………」

 赤司なら何だかんだで勉強とか教えてくれるし、マネージャーの仕事もたまに手伝ってくれる。わたしが人を好きでいられなくなったと何度も愚痴っても表情一つ変えずに話を聞いてくれる。簡単に人を好きになっていつの間にか好きじゃなくなっている自分の理解者なのではないだろうかと自惚れてみる。

「赤司って何気、嫌いじゃないし。むしろ、好きな方だと思う」
「渚……お前、それ無意識なのか?」
「へ? 何が?」

 無言だった赤司が急に顔を逸らした。その顔を覗き込もうとした瞬間に椅子から立ち上がり、「そろそろ帰るぞ」と荷物をまとめ始めた。

 わたしは頷いて教科書と文房具を鞄に入れて彼の後ろから教室を出た。その後ろ姿からは綺麗で眺めの赤色の髪から覗く耳がほんのりと赤く染まっていたことをわたしは知らなかった。





(僕は君を無意識に意識していた)

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