籠の歌鳥。

□歌姫の国・メイサ
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 この国の名前はメイサ。

 温暖な気候に広大な領地、豊かな自然が自慢の農業国。

 軍事力は乏しい国だが、この国でしか採れない特産物なども多く、行商人の行き来が盛んな国である。

 先程話したディーヴァ様とは、この国の女王の事で、本名はエレノア・ベル・リズグラントア。

 ディーヴァはあだ名。“歌姫”という意味である。

 何故彼女が女王なのに“姫”と呼ばれているのかと言うと、それはまだ彼女が17歳の少女だからだ。

 エレノアは7歳の時、前王である父と妃の母を事故で亡くした。

 前王には兄弟がおらず、妃も正室がただ一人。

 娘のエレノアだけが唯一残った血縁者だった。

 新しく国民の中から王を決めると言う案も出たが、多くの民は前王と妃を好いていたが為に、それを嫌った。

 結果、幼いエレノアが王位を継ぎ、その補佐として、エレノアの母方の叔父で、政治に携わっていたシルバルト卿が任命された。

 シルバルト卿はその人柄と腕前から、皆に一目おかれていた人物だった。

 そしてそれが偽りではない証拠に、彼が補佐についてからの10年間、メイサは大きな問題もなく平和に過ごせている。





「…とまぁ、こんなもんかね。若いの、なんか質問は?」

 話し終えた女主人の満足気な顔に、男はふーんと腕組みをした。

「なるほど。しかし、なんで“歌”姫なんだ?そんなに歌が上手いのか?」

 男の疑問をとんでもないとばかりに女主人が手をふって遮る。

「あの方は上手いなんてもんじゃないよ!そりゃぁもう、千年に一度の天才、なんて言われてるくらいさ!他の国から噂を聞いて来る人も多いんだよ!」

 歌声を思い出してか、恍惚とした表情で空を見る女主人に男は思わず笑ってしまった。

 馬鹿にしたわけではなく、本当に彼女の歌が好きなのだと充分伝わってきたからだ。

「凄いんだな、ディーヴァ様は。そこまで人を魅力する力があるものなら、俺も一度聞いてみたいものだ。」

「うん!いい機会だ、アンタも聞いていきな!今ね、半年に1度のディーヴァ様の聖歌祭が催されてるんだよ!」

「聖歌祭?」

「あぁ!お昼過ぎに聖堂でやるから聞きに行きなよ!」

 熱心に薦める店主の様に、男はまた笑った――。
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