籠の歌鳥。
□歌姫の国・メイサ
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その日、その国はお祭り騒ぎだった。
大通りにいつもはない露店が軒をつらね、店主がいい声で客を呼び込む。
「ちょいと、そこのお兄さん!見ていかないかい!」
今もまた、体格のいい露店の女主人に男が一人捕まった。
頭からすっぽりマントをかぶった背の高い男は、呼び止められたのが自分だという事に気付き、露店へと近付いてきた。
「何を売ってるんだ?」
商品を覗きながら喋った男の声は、腹の底に響く低くて心地よい声だった。
顔は見えないが、その声だけでも女主人の気を引くには十分だったようだ。
「あらーアンタ、うっとりするような声してるのねー。さぞかし顔も男前なんだろうね!」
「はは、ありがとう。でも対した事はないよ。それより、何を売っているんだい?」
男が脱線しかけた話を戻す。
女主人は“あら、ごめんなさいね”と高らかに笑うと、商品の説明を始めた。
「うちじゃ色々置いてるよ。メインはアクセサリーだけど、お土産用に我が国自慢の野菜や、織物なんかもあるよ!」
「へぇ、アクセサリーか…。」
男は露店のテーブルをしげしげと眺めた。
テーブルには、色鮮やかな宝石が沢山並んでいる。
「アクセサリーなら特にこれなんかがオススメよ。」
そう言って女主人が持ち上げたのは、音符を模したと思われる小ぶりなペンダント。
真ん中に綺麗な翡翠がはめこまれている。
「“ディーヴァ様”がモデルでね、きっと恩恵を受けられるわ!」
「“ディーヴァ様”?」
男が首を傾げカタコトに問い返すと、女主人は心底驚いた顔をする。
「アンタ、ディーヴァ様を知らないのかい!?」
「あ、あぁ…」
「なんだい!身なりからして旅のモンだろうとは思ってたけど、じゃあなんでこの時期にこの国に来たんだい?」
「い、いや、この国には用事があってたまたま立ち寄っただけで…」
男が本当に困った様子で頭をかくので、女主人はまた大きな声で笑った。
「嫌だね、別に責めちゃいないよ!でも折角来たんだから楽しんでってほしいし、色々教えてたげるよ」
そう言って、女主人は男にこの国の事を話始めた。