籠の歌鳥。

□歌姫の国・メイサ
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 光り一つ入らない、真っ暗な部屋。

 完全な闇と化したその部屋の中央に、椅子に腰かけた一人の少女がいた。

 陶器のような白い肌。淡い白金の長髪。桜色の頬。長い睫毛で飾られた大きな瞳。

 知らない人間が見たら、それを精巧に造られた人形だと思っただろう。

 しかし彼女の腹部は時折膨らみ、酸素が循環している事を伝えていた。

「エレノア様」

 ドアが開き、部屋に一筋の光が差し込む。

 その光と共に少女が一人、部屋に入ってきた。

 茶色の髪をきちんと束ね、シワ一つない紺の制服に純白のエプロンを身に纏った彼女の名はノーフィ。

 エレノア専属の侍女だ。

 ノーフィは入口から2、3歩進むと、深々と主に頭を下げた。

「エレノア様、そろそろご準備を」

 ノーフィの言葉に、ほんの少しだけエレノアがそちらを向く。

 硝子玉のような、感情のない瞳がノーフィを見つめる。

「…今行くわ」

 エレノアはぽつりと返事を返し、立ち上がった。

 そしてゆっくり、扉へと歩を進める。

 ノーフィは主に道を譲り頭(こうべ)を垂れ、主の足が自分の前を通り過ぎるのをただじっと眺めていた。

 エレノアは変わらず無表情に通り抜ける。

 少しだけ開いた扉の前。

 エレノアは立ち止まると視線をドアノブに向け、ゆっくりとを手をかける。

 そして、一気に開いた。

 光が一瞬にして彼女を包む。

「「おはようございます女王陛下」」

 エレノアの姿が外へと出ると、廊下にずらりと列をなした侍女達が一斉に頭を下げる。

「おはよう、皆さん。今日は大変かと思いますが、よろしくお願いしますね」

 エレノアが満開の花のような、輝かしい笑顔を見せる。

 それはさっきまでの無機質な表情をした少女とは、まるで別人だった。

 しかしそんな事など知らない侍女達は、エレノアの笑みに皆頬を染め、はにかんだ笑いを返す。

 全てを知っているノーフィだけが、さっきのエレノアのように無表情に主の様を見ていた。

 そう、まるで感情のない、操り人形のように−−。
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