戀〜それはイトシイトシトイフココロ
□甘いうさぎ
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世間一般の連休が始まる三日前。
できる限り人混みを避けて、萌黄は京都駅に降り立った。
蘇芳(すおう)が迎えにきてくれるはずである。
「自分、大島の弟?」
目の前に突然壁が現れたと思ったら、その巨人は後ずさる萌黄の腕を掴んだ。
気弱な萌黄に、この接近遭遇は気の毒であろう。
立ったまま気を失ったのかと思うほど、萌黄は意識を飛ばしてしまっていた。
「おい、返事ぐらいせえや…ちゅうか、寝とるんか?
えっ…ちょ…なんで泣くねんっ!?」
萌黄の顔を覗き込んだ巨人は、じわぁと潤みはじめた瞳を見てギョッと仰け反る。
「……あの…すみませんでした…」
差し出されたハンカチでグシグシと涙を拭いながら、萌黄は頭を下げる。
「…いや、ええけどな…。俺悪人面しとるし…。
東京モンには大阪弁がきつう聞こえるんやろ?」
ポリポリと鼻の頭を掻く巨人は、蘇芳の友人で宇佐美響(うさみひびき)と名乗った。
実験で手が離せない蘇芳に頼まれて、萌黄を迎えに来たという。
それを聞いてますます萌黄の眉が下がる。
親切で迎えに来てくれた兄の友人を前に突然泣き始め、嫌な思いをさせてしまった。
しょんぼりと肩を落とした萌黄を見下ろし、響が何やらデレっとしたことに気付かない。
響は190センチの巨体と強面を裏切り、可愛いものが大好きである。
150センチを辛うじて超えた小柄な体躯も、母親そっくりの可愛らしい容姿も、じわっと潤んだ目元も好みドストライクだ。
「まぁ。行こか?
大島は早くても一時間ぐらい掛かるやろうし、俺の部屋で待っとったらええわ。
それとも京都観光でもするか?
俺大阪出身やけど、だいたいメインどころは知っとるから案内できるで?」
響の提案は少し心が惹かれたが、新幹線で移動しただけでも心身ともに疲れている。
できることなら休みたい。蘇芳の部屋に行ければベストだが、響も鍵までは預かっていないらしい。