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□桜散るころには
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「もうすぐ、卒業ですねィ」

「……そうだな」

先生に抱かれた後帰ろうとしていたら下駄箱でたまたま沖田と会った。どうやら補習を受けていたらしい。風が痛いくらい冷たくマフラーに顔を埋めた。
もう部活も引退してしまいこうやって二人で帰るのは久しぶりだった。
沖田はズボンのポケットに手を突っ込んだままガムをクチャクチャと噛みながらそう一言呟く。沖田も卒業なんて考えるのかなんて少し不思議に思った。そりゃあ沖田も学生だよなと。すでに受験は終えていて沖田とは大学も一緒だ。ちなみに近藤さんも。

大学に行っても今までと変わらない日常が待っている。
先生……以外、は。


「さみしくなりやすねィ」

「お前がそんなこと言うなんて珍しいな」

「旦那のことですぜ」

「……先生がどうしたよ。お前教師とか嫌いじゃねーか」

「まぁそうですけど。旦那は別って言うか。変わった先生だったんでねィ」

嫌いじゃないですぜ、あーいうの。と続けた沖田はガムを風船みたく膨らませ、ぱちんと割れた。


「別に、変わんねぇだろ」

先生がいなくたって、俺達の日常は変わらず過ぎていくだろう。
先生だってそうだ。
俺がいなくなったって、新しいクラスを持ち、また変わらない日常を送っていく。
過ごした日々は思い出に変わり、そして段々と忘れられていくんだ。

俺は先生を忘れられる?

そんなの、ムリだ。
けど先生は俺を簡単に忘れてしまうだろう。俺と過ごした日々も、身体を繋げていたことも。しょせんその程度だと、最初からわかっていた。それなのに、先生の中で少しでも俺のことが、俺と身体を繋げていた時間が、残ってくれていればいいと望むのはワガママなのだろうか。
……いや、違う。
本当はこれからも同じように、先生と一緒に居たいと望んでる。これこそワガママだって、わかっているんだ。


(卒業したら、終わり)

互いにそう言ったことはなかったけど、二人ともわかっていたことだろう。
今更何言っているんだ、俺は。


「後悔しますぜ、このままじゃ」

「はぁ? どういう意味だコラ」

「旦那のことが好きなんだろィ。それぐらい見てればわかりまさァ、気色ワリィ」

「な……ッ!?」

「バレてないとでも思ってたんですかィ?」

サラリと言ってのける沖田に土方は驚いたように目を見開き、歩く足は自然に止まった。沖田は数歩先に行き振り返ると、ガムを道端にぺっ、と吐き捨てた。


「後悔なんかするかボケ」

沖田の言葉に眉を曲げ、そっけなく答えてやった。
何処に後悔するところなんてある。
何度も好きだと言った。何度も身体を重ねた。
もう十分過ぎるくらい自分の気持ちは告げてきた。ただ、先生がそれに応えてくれることも、振られることもなかっただけだ。
ただこれから思い出と変わる先生を受け入れていけばいい。辛いけど、少しずつ。もう後悔することなんて、何もない。


「そうですかィ」

へっ、と沖田は笑うとじゃあ俺も後悔は残さないようにしますかねィ、と続けた。




「あんたのことが好きでさァ、土方さん」



「……っな! は、え…?」

「じゃ、そういうことなんで」

「オイ! 総悟ッ!」

顔色一つ変えず沖田は爆弾発言だけを残しスタスタと先に歩いて行ってしまった。呼び止めても振り返ることもせず、その場に一人置き去りにされてしまった。


(総悟が俺のことを好き?)

そんなバカなことあるか……。総悟は幼馴染で、いつも俺に嫌がらせしてきて。ただの特別な、友達だった。そんな目で見たこともない。
けど総悟は、いつからか俺のことを好きになっていたのか。……俺が先生のことを好きだと気付いても、だ。
たちの悪い冗談なのか、それとも……。
顔色一つ変えないあいつは、瞳の奥で何を考えているのかサッパリわからなかった。



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