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□その先に見える嘘
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普段とは違うどこか真剣で若干低い銀時の声に、土方は不思議そうに眉をひそめた。銀時の視線を追うように、下を向く。

さらけ出された手首が、昨日の縛った跡を痛々しく残していた。


「っ、離せ!」

「なぁ、なんだよこの傷みたいなの。質問に答えろよ」

「テメェにゃ関係ねぇ」

銀時に掴まれた手首を、土方は乱暴に振りほどくと袖をのばしさらけ出された手首を隠す。
キッ、と銀時を睨みつけると、土方は背を向け、この場から離れようと歩き出した。


「なぁ、土方!」

呼びとめるように叫ばれた名前も無視し、土方は一度も振り返ることなく歌舞伎町の人ゴミの中に消えていった。



「あぁ、副長行っちゃったじゃないですか、旦那ぁ」

「ジミー君よォ」

「はい?」

「あの傷について知ってること、全部吐いてくんね?」
























「何なんだよあいつは……ッ」

あの場所から逃げるようにがむしゃらに歩いていたら、知らぬうちに息が上がり胸が上下する。
イライラと募るイラつきに、もう何本目かわからないタバコをまたくわえた。

見られた。
昨日の男に縛られた跡を。

ツキンとその手首の傷が痛んだ気がして、眉をひそめる。
タバコの煙が胸に入ってくるというのに、イラつきがおさまらない。けれどこの心境がイラつく、という感情とはまた違う気がすると感じていた。


(ムカつく野郎だ)

このイライラを全てあの銀髪野郎に押し付け、土方は路地裏へと入っていった。
適当に座り込み、ゆっくりとタバコを味わう。


俺は間違っちゃいない。
真選組の為だから仕方なくやっているだけだ。
それが例え相手が男で、俺も男でもだ。
ただ、それだけの話しだろ。

ただ、それだけだったはずなのに。


不意に土方のポケットの中で振動を感じ、土方はポケットに手を突っ込むと携帯を取り出す。
バイブ機能に設定された携帯は、土方の手の中で何度かブルブルと震えたあと、静かに動きを止めた。

「くそ……ッ」

携帯を開くとそこには一通のメールが届いており、土方はそのメールに目を通すと舌打ちを鳴らした。

昨日も相手した幕臣の奴から、今夜も相手してほしいというものだった。

土方はくわえていたタバコを床に落とし、靴でグリグリと潰す。
思わず漏れた溜息と一緒に、黒髪をガシガシとかきわけ携帯をポケットの中にしまった。

拒否権など存在しない。
呼ばれたら、まるで喜んでいるかのように尻尾を振り、抱かれる。
そんな自分に吐き気すら覚える。

これは真選組のためだ。
俺一人がこの気持ち悪い行為を受け入れれば済む話し。


真選組は俺にとっての全てだ。

そのためなら何でもすると誓ったのは、この俺だろ。


土方は重い腰を上げ適当に隊服を払うと、屯所へと向かう方向に足を進める。
相手が喜ぶような服は何だろう、屯所に帰ったら風呂入らないと、なんて考えてる自分が嫌になる。


腹は括った。
今更やめようなんざ思わない。

はず、だったのに。

テメェを見ると、自分の決心が呆気なく揺らぐ。
だから、俺の前に現れるな。
邪魔すんじゃねぇ。


真選組の、ためなんだ。
――俺の、ためなんだ。


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