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□その先に見える嘘
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「……っ」


(あー、くそっ。いてぇ。あんのエロジジィ……)

腰にヅキン、とした鈍い痛みを感じ、土方は眉をひそめ顔を歪ませると片手を腰に持って行き隊服の上から何度か摩る。
見回りだと言うのに己の身体は鉛のように重く、歩くだけでも億劫だ。
それが昨日の行為のせいだと言うのは決して口には出さない。アンナことでこんなになるなんて、そんなひ弱な身体のつくりなんざしてないと自分をたたき起こす。


「副長、大丈夫ですか? 疲れてるなら見回りくらい、俺一人で出来ますから。副長は休んでていいのに」

「俺が休んだら隊士に示しがつかんだろ」

「でも副長、昨日……」

「昨日のも仕事と同じだ。仕事のせいで仕事出来ないなんて、みっともねぇだろうが」

土方はスパー、と口からタバコの煙を吐き出すと、たまたま見回り当番が一緒になった山崎に鋭い視線を送る。

土方がその手の話しを嫌うのを山崎は知っていた。
鋭いその視線は、それ以上この話しに突っ込むなという意。

山崎は苦笑を浮かべ「無茶だけはしないで下さいよ」と言葉をかける。
聞いてくれたのか聞いてなかったのか、土方は山崎に向けていた視線を、タバコへと移した。


(気持ち悪ィ)

腰の痛みのせいか、昨日のことが頭から離れない。
貪るように口づけられた唇、身体を舐め回る舌、いやらしい手つき、欲に塗れた男の顔。
何度身体を洗っても、乱暴に擦っても、昨日の男の感覚が消えない。
込み上げる嘔吐の感覚に唇を噛み締める。

こうやって触られるくらいなら。
男に抱かれるくらいなら。


あの男に、抱かれたい。


(――いつからこんな俺は、女々しい奴になったんだ)



「あれあれ、こりゃあ副長さんじゃないの。ジミーも一緒で。何々、見回りかなんか? それとも銀さんに会いにきてくれた?」

急に聞こえた気の抜けた、けれど確かに聞き覚えのある声に土方はバッ、と後ろへ振り返る。


(あぁ、なんで)

こんな時に、テメェは。

今思い浮かべていた人物が目の前に現れ、土方は笑みを吐き捨てた。
一番会いたくて、今一番会いたくない、男。


「誰がテメェなんかに会いに行くかよ」

「相変わらず素直じゃないねぇ、土方くんは」

「思ったことを言ったまでだ」

土方の言葉に銀時はへらへらと笑い、赤い瞳を細める。そんな銀時からフイッ、と土方は視線を逸らした。


(その瞳で、俺を、見ないでくれ)



「さっすが色男。やっぱ銀さんとは違うねぇ」

「はァ?」

「勿体振んなってー。ほらここ、キスマークついてる」

「……ッ!」

銀時は土方の首元を指差し、にたにたとからかうように笑う。
そんな銀時とは対照的に、土方は驚きに目を見開き、急いで首元に手を持って行きキスマークを隠すと、バッ、と銀時に背を向けた。

スカーフで隠せてると思っていたのに。しかもよりによって、万事屋に見られるなんて。
バクバクと嫌に早まる鼓動。
このキスマークは、紛れも無い昨日の男、幕臣の奴に付けられたものだ。

(その瞳で、俺を、見るな。汚れた俺を見るな)

もし真選組の為に俺が男に足開いてるって、テメェが知ったら。

お前の瞳は、俺をどう見る。


「そんな恥ずかしがんなってー」


汚く、狡い、俺を。
蔑んだ目で見るのか?


「テメェと話してる暇はねェ。じゃあな」

「ちょっ、待ってよ土方くーん」

この場に居たくない。これ以上思考を絡ませたくない。
そう感じた土方は足早に此処をさろうと、銀時に背を向けたまま歩き出そうとするも、咄嗟に銀時に手首を掴まれ阻まれてしまう。


「――――えっ?」

「んだよ離せ、勤務中だ」

「それ、」

「あァ?」

「何、それ」



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