キリリク

□オーキッドの憂鬱
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エンジュはいつだって自由な奴で
あっちへふらふら
こっちへふらふら
そっちへふらふら……

誰にだって尻尾を振るから
彼氏の俺としては気が気じゃなかったりする。

「ナツちゃーん!!」

「っうわ!?エンジュさん!!?」

今だって、体に見合わない程に大量のご飯を食べているナツに後ろから抱き付いたりしちゃって。

(桐さんから怒られてしまえ)

怨念でも送るかの様に戯れてる大型犬と小動物を睨んでいると

「おーおー。男前が台無しやな」

「ケンさん」

うちの大将が酒のボトル片手に隣へと座ってきた。

「男の嫉妬は醜いで?」

「……うるせぇよ」

からかいが多分に含まれている言葉を睨む事で返すと、やれやれと言うように肩をすくまれる。

「まぁ。俺かてチワちゃんにちょっかい出しとる時は時々イラッてする時あるけど
お前、俺以上に嫉妬深いんちゃう?」

まぁ飲みやと空だったグラスに酒を注がれて渡されるけど、今日はバイクだからと突っ返した。

それよりも、俺は嫉妬深いと言われた言葉が胸に引っ掛かって。

「やっぱ……俺、心狭いのかな?」

エンジュと付き合う様になってから、日々俺の心を占めていく嫉妬心に俺自身でも戸惑っていて
この感情を自覚する度に自分の心の狭さというのを感じるようになってそう溢せば

「お前の心が狭い言うんやったら、此処に居る奴等の心なんてどんだけ狭いねん。
ちょい突っ掛かったらすぐ喧嘩に発展させようとする奴もおんねんで。
ランの場合は相手がエンちゃんやからやろ?」

ケンさんは楽しそうに喉で笑って、俺が突っ返した酒を飲む。
何でも見透かしてるみたいな仕種が気に食わないけど、違うと言い切れないから悔しい。

「ランはいつでも自分の事後回しにするトコ有るからな。
俺はエンちゃんとお前がくっついたの良かったって思っとるんやで?
お前が少しだけ自分の感情優先するようになったからな」

「ケンさん……」

どこか安心した様に目を細める表情が見えて、やっぱりこの人に付いてきて良かったと思える。

「ランは【P】の為によぉやってくれとるって思っとるよ。
でも、お前は副総長の肩書きにいっつも気ぃ張り過ぎとったからな。
エンちゃんがええ空気抜きしてくれとるんやってこれでも安心しとんねん」

ええ子捕まえたやないかと肩を叩かれて、何だか気恥ずかしい。
でも、その言葉が凄く嬉しかった。

「まっ。うちのチワちゃんには敵わんけどな」

「……………」

結局はそう来る訳ね。

「じゃ、俺はそろそろ愛しのハニーの所行ってくるから
お前もあんまハム子睨むだけやなくてたまには自分から奪い返しに行ってこいや」

最後にボトルの口から直接酒を流し込んで去っていくケンさんに心の中だけで感謝した。

でも…

(あの人、コレ全部1人で飲んだのか?)

目の前に有る空き瓶を見ながら、少しだけケンさんのザルっぷりに呆れた。
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