短編

□Beautiful Circus
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さぁさぁ。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
此処は楽しい夢の国。

愉快でお調子者のピエロに綱渡りをする美女達。

スリル満点の炎使いに空中ブランコも見物だよ。

それに何と言っても注目は此処のショーで一番の目玉。
そんじょ其処らの見世物とは訳が違う。

何と何と
人に変身をするライオンだ!!

勿論タネも仕掛けもありゃしない。
疑うのならばその目を開いて見ておくれ。

さぁさぁ
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
楽しいサーカスの始まりだよ!!!









「皆様お待たせ致しました!!
それでは今夜のメインイベント!!
人に化けるライオンの登場だ!!!」

司会者の紹介と共にスポットライトを浴びながら檻から出てきたのは一匹の大きなライオン。
大きな体躯に鋭い爪を持ち、低い呻き声を上げるその姿に観客は息を飲む。
そんな空気を嘲るかの様にライオンが咆哮を上げた次の瞬間

「―――――――ッッ!!!!!」

咆哮が言い様の無い雄叫びとなり
骨格が変わっていく不気味な音を立てながらライオンの形をしていたモノが姿を変える。

その音も、酷い痛みを引き起こしているのだとわかるような雄叫びも耳に堪えなくて、僕はいつもこの時は眉をしかめてしまう。

そして完全に人の形をしたライオンに衣服代わりのガウンを掛けてやると
そこには人の美しさを越えた様な美貌の男が姿を現した。

切れ長の金の瞳。
スッと通った鼻筋。
シャープなラインの輪郭に薄い唇。
そして、ガウン越しにもわかる鍛えられた大きな体。
鋭く冷たい雰囲気を纏いながらもその美しい姿に、周りがさっきとは違う意味で息を飲んだのが分かり
きっと、この見世物が終了した後には美しい彼を欲しがる物好きな富豪や婦人の声が立つのだろうと陰鬱な気分になった。





僕はこのサーカスの猛獣使いだ。
とは言っても、このサーカスに居るライオン――レオ以外の猛獣は使えない出来損ないという言葉が頭に付くけれども。
そんな僕が、なんで未だにこのサーカスに居るかというと……

「オーティ!!またレオがお前を探してるぞ!!!」

「……わかった」

同僚のピエロのロッツの言葉に頷き、レオの檻へと向かう。
今日の興行も終わり、今はきっと座長が金にモノを言わせてレオを欲しがる人達に断りを入れているだろう所で僕を呼んだという事は
きっとまたレオが暴れだしたんだと憂鬱になる。
別にレオが暴れたからと言って檻の中の事だから人に危害は加える事は無い。
只、あまり檻の中だと甘く見て放置をしていると
理性を失った彼は檻さえも壊してしまうから。

その前に

「レオ!!!」

檻を壊して人を襲う前に僕がレオを助けてあげないといけないから。


ライオンの姿に戻り、唸るレオに檻越しに抱きついてからそっとたてがみを撫でてやる。

「大丈夫。大丈夫だよ。
此処は君を傷付けたりしない。
だから怖がらないで」

宥める様に声をかけ、未だ威嚇をするレオに大丈夫だと言いながら撫で続けてやると、程無くしてやっとレオが落ち着いてきたのか
甘える様にクルルと声を出して僕の手に擦り寄ってくる。

レオの様子に座長も安心したのか、レオに怯えだしていた富豪達に

「この通り、人に成るとは言いましてもレオは猛獣です。
もし彼を飼われようとするならば
その喉笛をいつ噛み砕かれても良いというお覚悟をお持ち下さいます様―――」

座長のその言葉に周りの空気が冷えた様な気がしたのは気のせいじゃないだろう。
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