庭球お話
□ラブレター
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「おまえ、女だよな?」
「その触覚を引きちぎってやろうか」
いきなりやってきた幼なじみの桜井は、わたしの部屋にあがるなりそう言い出した。
なにこの人、すごく失礼。なんでこんなのが幼なじみなの、鉄がいい。
「便せんとか持ってるか?」
「シカト?シカトなの?内村くんに言うよ?顔面キラー頼んじゃうよ?」
「前衛キラーだよ。顔面キラーってなんだよ」
「桜井の顔面をボコボコにしてもらうんだよ。いつでも頼んでいいって言ってくれたんだ」
これは事実だ。桜井とケンカしたとき、内村くんに泣きついたらそう言ってくれた。
内村くんとはマブダチなのだ。あれ?マブダチって死語?まぁいいや。
「あーはいはい悪かった悪かった」
「便せんがどうかしたの?」
「実はな、ラブレター書こうと思う」
「わたし、いらない」
「お前には書かねぇよ」
「わかってるよ、ユキちゃんでしょ」
「おう」
珍しく、すんなり認めた。おぉ、大人になったな桜井。
幼なじみの恋をつぶす理由はない。むしろ協力すべきだ。わたしもいつか協力してもらおう。
引き出しからいくつかレターセットを引っ張り出して、桜井が座るテーブルに並べてやった。
しばらくそれを眺めていた桜井は、気に入ったのか、1つのレターセットから便せんを出して書き始めた。
「んー」
「桜井、便せん無限にないから無駄にしないで」
書き損じなのか、内容が気に入らないのか、書いてはくしゃりと丸められる便せん。
「あー、なんか違うな…」
「桜井、考えてから書けば?」
丸められた枚数が10に近くなったところでわたしはそう助言する。便せんをあげるとは言ったが、無駄遣いを許可した覚えはない。
「これは!これはいいぞ!!」
「レターセットほとんどなくなったじゃないか。お前どうしてくれるんだよ。買ってかえしてよ」
「お前に頼みがある」
「変わりに手紙は渡さないし、レターセット買ってかえしてよ」
「恥ずかしいだろ!レターセットは買ってかえす!」
「鉄に頼めば?」
「いや、石田は、ほら、」
なにがほらなの。意味わからない。
「わかった。500円な」
「頼む!」
「本来500円だけど、幼なじみ割引で無料」
「わりぃな!サンキュー!」
バタバタ帰ってゆく桜井。騒々しいやつめ。きっと今日は眠れないぞ。
翌朝、たまたま靴箱でユキちゃんにあった。
「あ、ユキちゃん」
これあげる。
(こっちもあげる)
(なにこれ)
(恋文とその書き損じ)