庭球お話

□おめでとう
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卒業式の前の日に電話が鳴った。母さんがでたあと、ニヤニヤしながらおれに受話器を渡す。

「だれ?」
「ヒナちゃんよ」
「あぁ…もしもし?」
『あ、もしもし桜井まさやんぐ?』
「おう」
『明日告白するんだ!』

ヒナは受話器がおれにわたると意気揚々とそう告げた。

『桜井、応援しててね!』

大好きな女の子が、明日、大事な仲間に告白する。



翌日、式が終わって桜の木の下でぼんやりと舞い落ちる花びらを眺める。天気は良くて、ものすごく良くて、

『桜井ー』

聞き覚えのある声に振り返る。ヒナが手を振りながら走ってきた。

『桜井なんかかっこいいね!さっき遠巻きにみてた女の子たちがかっこいいっていってたよ!桜井だけに桜が似合うね!』

落ち着きのない様子でヒナはベラベラ喋る。

『あ、あとねあとね、桜井聞いて聞いて!さっき石田くんにね、好きっていってきた!言っちゃった!』
「そうか」

満足そうに笑う彼女。そんなヒナに釣られて、つい笑顔になる。

『でも、石田くん、の…』
「ヒナ…?」
『石田くんの返事聞かないで来ちゃった!!』

どうしようどうしようと、おれの学ランを引っ張り体を揺する。

「止めろ、吐く」
『だって、だって石田くんさ、』
「大丈夫だよ、だから止めろよ」
『おま、大丈夫とかなんだよ優しいなやめろ惚れる!』
「うそつけ!」

しばらくそんなやりとりをしていたら、こんなときでも頭にタオルを巻いた相棒がこちらに走ってくるのが見えて、嬉しいだか悲しいだか、複雑な気持ちになる。

「小山さん!」
『うわぁぁああああ!!』
「っ!おいっヒナ!?」
『違うんですなんでもないんですごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』

想いを告げたあと走り去ったヒナを追ってきたであろう石田が来た。
すぐさまおれの後ろに隠れ、何故か謝罪を繰り返すヒナ。そんなヒナの顔の高さにしゃがみ、石田は言う。


逃げたい。いなくなりたい。この先はもう知っているから、逃げたい。


「なんでもないの?」
『ない…』

まるで叱られた子供みたいな声で、ヒナは石田に返事する。

「残念だなぁ…おれ、…小山さんのこと好きだよ」
『うん………え?』

2人が両想いなのは知っていた。どちらからも相談を受けた。どちらかにウソをつけば、おれはこんなめにあわずにすんだのに。

でも、どちらかにウソをつけば近くでそいつの悲しむ顔を見なきゃいけないし、後々悲しむもう片方をみる。

おれは、自分のわがままで2人を悲しませたくはなかった。

「ほら、わかったら離れろ。お前が引っ付くのはおれじゃないだろ?」
『桜井?』
「邪魔者は消えるよ」

少し震える声に気づいてか、ヒナが不安そうに見上げてくる。

大丈夫だよと笑って、2人に背を向けた。


おれのは叶わなかったけど


(桜井…)
(なんだよ)
(桜と一緒に散っていったね!淡い恋心が!)
(なにそのドヤ顔)
(桜井ふられたんだろ?)
(うるせぇ神尾どうせお前もふられたんだろ)
 

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